【9月10日 AFP】2020年夏季東京五輪の開催は、敗戦後の焼け野原からの復興を果たした姿を世界に見せた1964年東京五輪をなぞり、長く停滞する日本経済の復活を確実にすることができるかもしれない──。アナリストたちはこう分析している。

 東京が五輪開催地に決まった数時間後、アルゼンチンのブエノスアイレス(Buenos Aires)で記者会見した安倍晋三(Shinzo Abe)首相は、世界最大のスポーツの祭典の主催は、経済成長に良い影響を与えることは明らかだと述べた。「15年続いたデフレや縮み志向の経済を、五輪開催を起爆剤として払拭していきたい」

 ここ約20年にわたり経済の低迷とデフレに苦しんだ日本は、世界第2位の経済大国の座を中国に明け渡すことになった。政府は幾度となく経済の再興を試みたが、目ぼしい結果にはつながらず、債務を膨らませただけだった。

 そこに希望の光を灯したのが、昨年12月の選挙で政権の座に就いた安倍首相だ。「アベノミクス」と呼ばれる首相の経済政策により、経済には回復の兆しが見え始め、このままいけば本当の復活を遂げる可能性もあるとの楽観的な見方も出ている。

 そして今、東京で再び五輪を開催する権利を手にした日本。これを機に経済回復を確実なものにし、活気ある経済でかつて知られた国を今一度、回復させることができるのでは、という期待は高まっている。

 「東京五輪開催で最も重要なことは、アベノミクスの腰折れリスクを低下させることにつながることです」と、岡三証券(Okasan Securities)の石黒英之(Hideyuki Ishiguro)日本株式戦略グループ長は言う。

 東京都は、五輪開催による経済効果を、日本の国内総生産(GDP)の1%にも満たない約3兆円と試算しているが、石黒氏はそれ以上の経済効果が見込めると話す。「東京都の試算は競技会場や関連施設だけで、首都圏の高速道路などのインフラ整備や、自民・公明両党が掲げている全国のインフラ整備、いわゆる国土強靭(きょうじん)化計画は入っていません」

 石黒氏は、2020年東京五輪の経済効果は、新幹線網などのあらゆるインフラを整備する必要があった1964年の東京五輪ほど大きくはならないとみている。

 「64年の五輪の際は、競技会場等の整備費はせいぜい300億円程度だったんです。しかし、首都高や上下水道の建設費を含めると、9600億円になります」と石黒氏。「同様に波及効果は東京都の試算よりもずっと大きいはずです」

 大和証券(Daiwa Securities)のストラテジスト、木野内栄治(Eiji Kinouchi)氏は経済効果を150兆円と見積もる。うち55兆円は設備投資による効果、残り95兆円は、今から五輪開催までに見込まれる観光業への波及効果だ。「外国人観光客を2020年ごろに倍増する計画は、五輪開催というきっかけで達成しやすくなるでしょう」(木野内氏)

 2011年の東日本大震災での大津波と、それに伴う福島第1原発からの放射能漏れ問題は、外国人観光客の激減を招いた。観光客数は大幅な円安の流れなどの影響で回復へと向かっているものの、福島第1原発で新たな問題が次々と発覚するなど、放射能漏れ問題は観光業にとってのブレーキとなり得る、と専門家らはみている。

 ブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会(International Olympic CommitteeIOC)総会で福島第1原発に対する国際社会の懸念の払しょくに努めた安倍首相は、東京から200キロ離れている福島原発はきちんと制御されていると強調した。アナリストらは、このように首相が公の場で宣言したことは、日本政府が放射能問題に注力し続けるための一助となるだろうと考えている。

 五輪がもたらす最も重要な効果の一つは、投資家と消費者に与える安心感だ、という見解には、大半のコメンテーターが同意している。

 第一生命経済研究所(Dai-ichi Life Research Institute)の嶌峰義清(Yoshikiyo Shimamine)主席エコノミストは「安倍政権は税制も含めた痛みを伴う改革、成長戦略を続けなければ、五輪効果だけでは成長を続けられない」と警告する。「五輪開催があらゆる面でうまくいけば、日本が『失われた20年』から戻ってきた、と世界に印象づけることができるでしょう」(c)AFP/Kyoko HASEGAWA