【1月23日 MODE PRESS】スペースコンポーザーとして2002年の設立以来、数々の時間と空間を作りあげてきたJTQ代表取締役社長の谷川じゅんじ(Junji Tanigawa)氏。「空間をメディアにしたメッセージの伝達」を考える集団としてコミュニケーションを創造する場づくりに深くコミットしてきた10年間が1冊のアートブック「Junji Tanigawa, The Space Composer」として完成した。

 これまで手がけてきたクリエイティビティ溢れる仕事の軌跡を記録した本作は、シンガポールを代表するアート・ディレクター、テセウス・チャンのデザインによって、1冊1冊丁寧にハンドワークで仕上げられた。かつて見たことのない、驚きに満ちたアートブックでは、谷川の哲学、思考、クリエイションを解き明かす。今回は発売を目前に、今作に込めた想いを聞いた。

■インタビュー:谷川じゅんじ(スペースコンポーザー)

-幼い頃から“何か”を伝えたい・・・

 9歳の頃の日記をたまたま、母親が発見して送ってくれたら、子供のころから飛び出すポップアップ形式の日記だったんです。今回デザインを手がけてくれたテセウスに、キミは子供の頃からポップアップを作っているんだねと言われて、今の仕事はとても必然的だったような気がしました。

 その日記には、小学生の頃、なにかを伝えたいと思った気持ちがそのまま、形になっていて、何十年も時間が経っているのにとても新鮮でした。たとえば、熱が出た時の日記は特に印象に残っていて、ゴザの上に布団を敷いて寝ているけれど、寝ている自分を横から捕らえている。風邪を引いて寝込んでいる自分を書きたいから、第3者のものの見方で画を描いているのは、自分で自分に驚きました。ほかにも、映画の半券チケットとか、1969年(4歳の頃)のアポロが月面着陸した新聞の切り抜きなんかもあって・・・幼いながらにも夜中に起こされてライブを観た記憶がそれを見直すことでドンドン蘇ってきました。

-時間や空間の“体験”を一冊に

 “もの”は生まれた瞬間から、いつか朽ちていく。その経年していく時間に、存在する意味があると僕は考えていて・・・空間も同じ。僕ら、JTQがやっている仕事もポップアップだから、ある目的のために生まれて、ある一定の期間に多くのひとにメッセージを伝えたら無くなってしまう。けれど、この世のなかから存在が消えるのではなく、記憶という形で残る。期待、印象、そして記憶の連鎖・・・・。空間って生まれては消えて、、、、その瞬間そこにいる人たちのエネルギーでその“場”は生まれる。その空間でその瞬間を共有する体験こそが産物で、その場を去る時に記憶として留まる。

 僕らが10年間作ってきた空間は、記憶として「写真」という形でしか残っていなくて、立体でつくったものが2次元の平面で残っている。でもここで、残っている写真、つまり“記憶”をもう一回、本という形で“体験”に戻そうと思ったんです。そしてその“体験”に戻すためには、どうすべきか考えたとき、その時、その瞬間、その場所にいた人たちの一期一会こそが空間の本質だから、本を出すなら、1冊ずつ違うべきだと。それはごく自然の流れで決まったことでした。

-感情の高ぶりや情報の空気感を感じて

 今回のアートブックは一見おなじに見えるけれど、実は1つ1つが微妙に違う。100%ハンドメイドで、表紙に使っているガーゼ素材は、すべて手張りだし、ニュアンスも違う。そもそも世の中に存在しているすべての物は絶対に同じ物ではないと僕は思っていて、、、、。みんな1つ1つ違っているし、それでいいと思う。しかしそれが今の社会では、効率化や生産性を極めていった結果、画一化されたものになりがちです。それだけを信じてしまうと、気がつけばいつも同じところで行き詰まっている。いま社会が抱えている問題の多くがそういう矛盾や歪みが積み上がったもので、それがいろんなところで現れているような気がするんです。

 そこでもう一回、ヒューマンスケールというか、人間の本来の感覚に立ち戻り、過剰にあふれた情報の中で自分の身体感覚の中から遠ざけられているものを、情報に身体性を持たせる感じ、執着する感覚や、本に対して愛着をもつという感覚をこの本を通して感じて欲しいなと。本っておもしろくて、その人その人で読み方が現れる。途中から読む人、後ろから読む人、最初から読む人、気になるところを何度も読む人・・・・汚れる箇所もそれぞれ人によって違う。今回のアートブックはまさにそれ。順路のない本。自由そのものだね。逆さから観ても、地理的な情報や知識を与えるものではなく、表現されている人がいる場所に行くとか出会えるとか表現されている情報の空気感や人間の欲求や感情の高ぶりとか、そういうものが伝わるとうれしいですね。【岩田奈那】(c)MODE PRESS

<インフォメーション>
JTQ公式サイト<外部サイト>