【6月20日 AFP】米国で携帯ブロードバンド接続に割り当てられている電波の周波数帯が、スマートフォン(多機能携帯電話)やタブレット端末、その他の携帯端末の爆発的な利用増により使い尽くされるという危機的な状況が目前に迫っている。

 この問題は「周波数逼迫(ひっぱく)問題(スペクトラム・クランチ)」と呼ばれており、米規制当局の見通しによると早ければ来年にも到来し、2014年にはさらに悪化する。対策が講じられなければスマートフォンのネット回線速度は低下し、接続状況は悪くなり、接続料金は高騰するだろう。

 iPhone、アンドロイド端末、ネット接続自動車、医療無線機器などの携帯端末は電波を使って通信事業者と接続している。テレビやラジオの放送、航空管制や軍事通信、警察や救急の通信にそれぞれの周波数帯が割り当てられている。

 米連邦通信委員会(Federal Communications CommissionFCC)によれば、無線データ通信量は2015年まで毎年倍増する見込みだ。つまり、不足する周波数帯の幅は2013年には90メガヘルツ、2014年には275メガヘルツに達することになる。

 一部の通信事業者はこの状況を見越して、すでにデータ通信量やスマートフォンによる接続速度の上限を引き締める措置を取り始めている。

■アップルとiPhoneのせい?

 通信アナリストのジェフ・ケーガン(Jeff Kagan)氏は、米アップル(Apple)が出したiPhoneとiPadがデータ通信量を急増させ、今ではさらにアンドロイド機器が周波数帯を使い尽くそうとしていると言う。「(iPhone登場で)業界全体がシフトした。今では何十万ものアプリがネットワークを絞り上げて干からびさせようとしている」と同氏は語る。

 米家電協会(Consumer Electronics AssociationCEA)のジュリー・カーニー(Julie Kearney)氏は「最終的に困るのは消費者だ。こういう製品を作ることはできるだろうけれど、使える周波数帯がなければ消費者はそういう製品を使わなくなるか買わなくなる。そうなったら、いったい誰がそういう製品を作り続けだろうか?」と言う。

 通信事業者や放送業界、政府機関などは合計で2500メガヘルツ分の再割り当てを求めて周波数帯の争奪戦を始めている。オバマ政権は2011年、今後10年間で約500メガヘルツ分の周波数帯をオークションと政府の通信の合理化で捻出する計画を発表したが、今後1~2年で使えるようになるのはごくわずかだ。

 また、ケーブルテレビや衛星テレビに視聴者を奪われ続ける中、今も合わせて300メガヘルツもの幅の周波数帯を割り当てられているテレビ放送業界にも注目が集まっている。

■テレビ業界は反発

 全米放送事業者協会(National Association of BroadcastersNAB)は昨年、批判をかわそうと外部に研究を委託し、周波数逼迫の危機は誇張されており、高効率のアンテナと中継局を設置することで回避可能だとする結果を発表した。

 この研究を率いたコンサルタントのUzoma Onyeije氏は「『スペクトラム危機』という主張の根拠は弱い」と語る。

 一方、無線通信の業界団体CTIAの規制問題部門副代表、クリス・グットマンマケイブ(Chris Guttman-McCabe)氏は、放送業界は市場の大きな変化を無視していると言う。「いま私が目にしているのはあらゆる種類の通信が無線に移行しているという状況だ。ブロードバンド接続の大半は無線になりつつある」と語り、全ての先進国で無線データ通信のために周波数帯の再割り当てが行われていると付け加えた。

■必要とされているところに周波数帯の割り当てを

 ジョージ・メイソン大学(George Mason University)のトーマス・ヘイズレット(Thomas Hazlett)教授(情報経済プロジェクトディレクター)は、「周波数帯の狭さをカバーするための技術を導入すれば費用がかさむ」と指摘する。

 ヘイズレット氏は「国防総省がこの周波数帯が必要だと言っても、本当にそうなのかわれわれには知る由もない」と述べ、広い周波数帯を使用している政府機関の多くに「使用する周波数帯の幅を節約する経済的なインセンティブがない」ことも指摘した。

「政府は消費者と市場が本当に必要としているところに周波数帯の再割り当てを行うべきだ。ワイヤレス分野には本当にたくさんのイノベーションが存在する。これを圧迫するようなことをしてはならない」と同氏は語った。(c)AFP/Rob Lever