【3月10日 AFP】「海が一気に後退して海底がむき出しになり、たくさんの海洋生物が見えるほどだった」。365年当時繁栄していたエジプトのアレクサンドリア(Alexandria)港を襲った津波について、ローマの歴史家Ammianus Marcellusは畏敬(いけい)の念を抱いてこのように表現した。

 古文書によると、365年7月21日に発生した津波は、ギリシャ、シチリア島(Sicily)、アレクサンドリアから現在のアドリア海に面するドゥブロブニク(Dubrovnik)までに住む人々の命を奪った。

 津波を引き起こした地震は、トルコ南西部からギリシャ西部まで500キロにわたり地中海の海底に半円形に横たわるサブダクションゾーン(プレート同士が重なり合い沈み込む場所)で発生した。

 英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)のベス・ショー(Beth Shaw)教授率いる研究チームはこの津波について、10メートル程度の隆起がみられるクレタ島(Crete)での実地調査などに基づくコンピューターシミュレーションを行った。

 研究によると、地震の震度はマグニチュード8.3-8.5程度で、平均20メートルの地滑りは2004年にインドネシア・スマトラ島(Sumatra)沖で発生したマグニチュード9.3の地震と同じカテゴリーに属する。

 地滑りはサブダクションゾーンのすぐ上の、それまで認識されていなかった地表近くの100キロにわたる断層で発生したと、研究は結論付けている。

 地震は約45キロの深さで発生した。これは地滑りがサブダクションゾーン自体で起こった場合より30キロほど浅い位置だ。365年の地震以降、この断層は約5000年ほど沈黙を保つものとみられている。

 ところが、もしこのほかのサブダクションゾーンに沿ったテクトニック構造が類似のものだとすると、津波を伴う地震が約800年後に地中海東部を襲う可能性があると、研究チームは推計する。

 地中海東部を襲った直近の津波は1303年8月8日に発生した。2006年に発表された研究によると、クレタ島沖で発生したマグニチュード7.8の地震の40分後、9メートルの津波がアレクサンドリアを襲ったという。(c)AFP/Richard Ingham