【9月22日 AFP】制服姿の看守の監視下、レーザーワイヤーとマシンガンを背にエステティシャンが静かに顧客にサービスを施しているのは、マレーシアの「刑務所スパ」だ。

 厳重な警備態勢にもかかわらず、インドネシアのバリ島風に改装されたスパは盛況だ。マレーシア最大の女性刑務所が営業しているこのスパは、女性受刑者たちに、出所後のための職業訓練の機会も与えている。

「まったく怖くないわ。ここの受刑者は接客サービスをよく訓練されているし、安全も確保されているから」と語るヌール・アリザ・オスマン(Noor Aliza Osman)さん(45)。このカジャン刑務所(Kajang Prison)のスパを訪れるのは2回目だという。「快適で値段もリーズナブルだし、それほど待たないで、他のサロンと同じように髪を整えてもらえる」と話しながら、30歳のファラー(Farah)受刑者(刑務所の要請により仮名)に染料ヘンナで髪を染めてもらっている。

■社会復帰後の仕事に

 髪を後ろで丁寧に結び、緑色のゆったりとしたジャケットとズボンを着たファラー受刑者は、よそのエステティシャンと変わらないように見える。ただ一点、作業ウェアには囚人番号が縫いつけられている。

「こうした機会が得られてとてもうれしい。常連もできた。親しくなったお客さんに、釈放されたらうちで働いてほしいと言ってもらえた」とファラー受刑者はほほ笑む。「とてもよい経験になるし、役に立つ技術を学んだ。ここを出て、お金ができたら、自分のスパを開こうと考えているわ」

 ファラー受刑者はインドネシア国籍で、マレーシアでウェイトレスとして働いていた。ビザが切れて不法滞在となり、1年の実刑判決を受けた。

 現在このスパで働くファラーたち7人の受刑者は、毎朝監房を出て4つの検問所を通り、数百メートル離れたスパのサロンに通う。空中にアロマの香りがただよう快適な建物に着けば、看守3人の厳しい監視はあるが、9時間の勤務中、客と話したり、笑ったりして自由に交流することが許される。

 働くことができるのは、重罪や暴行罪を犯していない受刑者に限られる。同刑務所の受刑者1600人のうち約60%は外国人で、多くは在留資格違反のインドネシア人だ。

 前年スパが開店してから、客足は順調だ。スパでは頭のてっぺんから爪先まで、全身の美容エステを提供しており、フェイシャルエステ、ペディキュア、フットリフレクソロジー、マッサージといったサービスをわずか30リンギット(約790円)で受けることができる。

■刑務所に対する認識変える

 カジャン刑務所のFauziah Husaini所長は「これまでの反響はとても大きい」と言う。「当初は、刑務所に来ることに二の足を踏む客も多かったが、このプログラムによって受刑者に対する世間の認識も変化し、将来、彼らが社会に受け入れられやすくもなるだろう」

 スパから刑務所が得る収入から、スパで働く受刑者には少額の手当が支給され、残りはパン作り教室や縫製教室などほかの更正プログラムの資金として役立てられる。

 Husaini所長は「われわれは基本的に、受刑者の出所後の社会復帰に備える手助けをしているが、この更正プログラムによって、世間から見て刑務所の秘密のベールがはがされることも願っている」と期待する。「肝心なのは受刑者を力づけ、自信をもたせること。それがこのスパを設立した理由です」(c)AFP/Beh Lih Yi