【1月27日 AFP】バラク・オバマ(Barack Obama)第44代米大統領の誕生は、米国の黒人社会のみならず、「左利き」という少数派の人びとも歓喜させている。

 オバマ新大統領は、就任式翌日の21日に初の公式文書に署名する際、報道カメラマンに対し「僕は『レフティー』。もう慣れたよ」と言って笑った。大統領はもちろん、政治的な意味で言ったのではない。

 科学的な調査によると、米国では左利きは10人に1人だ。だが、政治、スポーツ、芸術の分野では突出して多いという。

■左利きの資質は大統領向き

 左利きは直感や独創性にすぐれていることがさまざまな研究で実証されているが、この2つこそ、危機に直面した国で今最も必要とされているのかもしれない。

 実際、最近の米大統領5人のうち、ジェラルド・フォード(Gerald Ford)、ロナルド・レーガン(Ronald Reagan、両手利き)、ジョージ・H・W・ブッシュ(George H.W. Bush)、ビル・クリントン(Bill Clinton)の4大統領が左利き。前年の大統領選でオバマ氏の対立候補だった共和党のジョン・マケイン(John McCain)上院議員も左利きだった。

 米プリンストン大学(Princeton University)のサム・ワン(Sam Wang)教授(神経科学)によると、歴代大統領に左利きが多いことには科学的な根拠があるという。ワン教授は、「高い言語能力を有した人には左利きが多い。左利きは、問題解決に際して独特な手法をとる傾向があることが、数々の実験でわかっている。これは学問的には『発散的思考』と呼ばれることもある」と説明する。

 また、左利きは言語の処理を右脳と左脳の両方を使って行う傾向があり、オバマ、クリントン、レーガンの各大統領のコミュニケーション能力の高さはこれで説明がつくかもしれないが、全員に当てはまるわけではないという。

■語源は「邪悪な」、20世紀までは嫌悪の対象

 1881年に就任からわずか4か月で暗殺されたジェームズ・ガーフィールド(James Garfield)元大統領が左利きで、片手でラテン語、もう一方の手でギリシャ語を同時に書くことができたと言われるが、そのほかにフォード大統領以前で左利きの大統領はほとんどいない。このことは、左利きを嫌う社会的習慣と多少関係があるのかもしれない。

 米国などの国々では20世紀に入ってしばらくするまで、学校では左利きだと体罰を受ける恐れがあった。左利き嫌悪の歴史は古代にさかのぼり、英語の「sinister(邪悪な)」という語は「左」を意味するラテン語に由来している。
 
 オバマ氏は国際舞台における「選ばれし左利き」の一員だが、一部の「メンバー」には不信感を示すかも知れない。米連邦捜査局(FBI)の捜査資料によると、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)の指導者ウサマ・ビンラディン(Osama Bin Laden)容疑者も左利きだという。

 右利き仕様の社会において、左利きには不便なことも多い。ハサミや机などがそうだ。だが、オバマ氏に限って言えば、大好きなバスケットボールで、左手でボールを突きながら左に攻めるという妙技を披露できるという利点がある。

■ネットの左利きコミュニティーも勢いづく

 最近、ネット上には、左利きが集うフォーラムが誕生している。ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のフェースブック(Facebook)の「Left-Handed People for Barack Obama(バラク・オバマ大統領を支持する左利きの会)」には620人を超える会員が登録しており、ある会員は「大統領が左利きだったなんて!左利きは強くて思慮深くて、人を勇気づけると同時に責任感も強いの。大統領にはうってつけじゃない!」と興奮気味のコメントを寄せた。

 プリンストン大のワン教授は、「左利きは自分がいじめられているように感じており、人から『違う』と思われている。こうした孤立感は、大成功を収めた科学者やアーチストに共通している。彼らがいずれリーダーになると考えると逆説的だが」と述べた。(c)AFP/Jitendra Joshi