【3月13日 AFP】米大学の研究チームは12日、心臓ペースメーカーなどのワイヤレス医療機器が送受信する患者情報がハッカーに悪用される恐れがあると指摘した。

 研究を行ったのは、コンピューター科学を専門とするマサチューセッツ大学(University of Massachusetts)のケビン・フー(Kevin Fu)氏とワシントン大学(University of Washington)のタダヨシ・コーノ(Tadayoshi Kohno)氏、ハーバード大学医学部(Harvard Medical School)の心臓専門医、ウィリアム・メイゼル(William Maisel)氏が主導する研究チーム。

■除細動乱される懸念も

 同チームが、ICD(植込み型除細動器)が発信する信号の傍受(インターセプト)テストを行ったところ、患者の氏名、生年月日、治療状況など医師が扱う患者情報を傍受できたという。

 さらに、自前の機器を用いて不正に患者情報を書き換えることもできた。こうした技術が悪用されれば、患者の除細動ショックのタイミングを狂わせることも可能だとフー氏は懸念を示す。

■技術進歩に伴う脅威

 今日、医療に用いられるワイヤレス型のICDは、信号を送受信できる距離が限られているが、技術の進歩に伴い、送受信範囲は拡大する傾向にある。しかし、これは信号傍受の恐れが高まることも意味する。

 研究チームは、今までICDやペースメーカーをつけた患者がハッカーの攻撃を受けた例はないとしたうえで、「医療機器の高度化に伴い、ワイヤレス技術やインターネット接続が取り入れられ、周辺機器との接続機会も増える。こうした進歩に伴って引き起こされかねない事態が大いに懸念される」と危惧(きぐ)を示す。

「将来、患者の体内で除細動器が薬ポンプに指示を送ることもあり得る話だ」と予測するフー氏は、「先端技術と医療機器の融合が進む現代では、患者のセキュリティーとプライバシーを守ることが、ひいては安全と有効性につながる。このことへの社会の理解を深めたい」と語る。

■メーカー側の対策急務

 一方、メイゼル氏は研究の主要目的について、「医療現場でのワイヤレス技術導入が進むなかで、医療機器メーカーには患者情報の保護やプライバシーについてより慎重な対策を求めたい」と声明文のなかで語った。

「幸いなことに、医療機器メーカーのなかには信号傍受に対する防御策をすでに導入している所もある。だが、まだ成されるべきことがある」(メイゼル氏)

 研究結果は5月にカリフォルニア(California)州オークランド(Oakland)で開催される電気電子学会(Institute of Electrical and Electronic EngineersIEEE)の「安全とプライバシーに関するシンポジウム」で発表される。(c)AFP