【1月11日 AFP】米国の研究者らが、乳がんの骨や肺への転移を妨げる遺伝子を特定した。10日の英科学誌ネイチャー(Nature)に研究結果が掲載された。

 がんの転移は、腫瘍の塊(固形腫瘍)を持つがん患者にとって死因のほとんどを占めており、転移性乳がん患者の場合、10年以上の生存率は10%に満たない。今回の研究成果には、乳がん以外のがんでも転移予防薬の開発につながるものとして、期待が寄せられる。また、がんの転移や再発の予測にも役立つとみられる。

 研究を主導したのは、米ニューヨーク(New York)、メモリアル・スローン・ケタリング癌センター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)ハワード・ヒューズ医療研究所(Howard Hughes Medical Institute)のJoan Massague博士。

 これまでの研究では、乳がんを含む腫瘍で、ミクロRNA(miRNA)レベルが減少することが報告されていた。Massague博士らは、がん転移にmiRNAが何らかの役割を担っていると考え、ヒトの乳がん細胞の遺伝子を解析。その結果、非転移性のがん細胞と比べて転移性のがん細胞では、3つのmiRNAの量が著しく減少していることがわかった。

 miRNAは、細胞内に含まれる1本鎖のリボ核酸(RNA)で、タンパク質の合成に関与する伝令RNA(mRNA)の力を調節し、遺伝子の発現を制限する機能がある。また、細胞の発生やがん、ストレス反応、ウイルス感染などでも、重要な役割を持っている。

 マウスを使った実験で3つのmrRNAのレベルを通常程度に修復したところ、がん細胞が骨や肺に転移するパーセンテージが大いに減少した。

 さらに実験を進めた結果、3つのmiRNAのうち「miR-126」の欠損が転移性細胞の拡散率を高め、「miR-335」と「miR-206」の欠損が骨と肺へのがん移転を助長することが明らかになった。

 研究チームは続けて、3つのmiRNAがどの遺伝子の発現を制限しているかを調べた。その結果、合計6つの遺伝子が、miR-335の欠損とともに活発化することが判明した。6つの遺伝子には、がん細胞による他組織の浸食など、細胞移動を助長する遺伝子として知られる「SOX4」と「TNC」も含まれた。

 これらの遺伝子の活動を阻害した結果、がん細胞の移動能力も弱まった。さらに、乳がん患者368人の腫瘍を調査したところ、miR-335の影響を受ける6つの遺伝子が特に活発な患者では、がんの転移がより顕著なこともわかった。

 Massague博士は、「わたしたちが特定した遺伝子は、がんが今後どのように進行していくかを推定する、もうひとつの指標となるだろう」と述べた。(c)AFP