【11月9日 AFP】「光の帝国」などでおなじみのシュルレアリスムの巨匠、ルネ・マグリット(Rene Magritte)。その不条理な世界を新たに見つめ直す大々的な回顧展が、オーストリア・ウィーン(Vienna)のアルベルティーナ美術館(Albertina Museum)で8日開幕した。

 英リバプールの現代美術館「テート・リバプール(Tate Liverpool)」との共催の展覧会は、欧州、北米、日本の美術館および個人のコレクションからかき集められた250点余りの作品を製作年代順に並べ、コラージュから「光の帝国」に至るまでの足跡を辿る。中には、めったに公開されないような作品もある。

 館長のクラウス・シュローダー(Klaus Albrecht Schroeder)氏は8日、開幕を前にした内覧会で、「描かれているのは、われわれが夢の中で見たことがあるような世界。けれども彼は、夢を描いているのではありません。均衡を崩す、つまり変質させるという1つの原則を貫いているだけ。こうすることで、理性的な現実を攻撃しているのです」と解説した。

 展覧会は、パイプの絵に「これはパイプではない」という文字を入れた「これはパイプではない」というタイトルの絵で心理戦を挑んだあと、ポップカルチャーに着想を得たという「Periode Vache」、そしてミステリーを主題にした後年の作品へと来場者をいざなう。

 風変わりな短編映画や、手紙、ポスター、広告のほか、マグリットがしばしば絵のように不条理に構成した友人や家族の写真などのコーナーもある。

■不確実性が支配する今だからこそ・・・

 テート・リバプールのクリストフ・グルネンベルク(Christoph Grunenberg)館長は、「この展覧会はマグリット作品の新たな見方、新たな意義を提示するもの。マグリットは皆さんが再発見できるアーティストです」と述べた。

 1898年にベルギーに生まれたマグリットは、1967年に生涯を閉じるまでに多くの作品を残したが、その大半が社会的、政治的、経済的な混乱の時代に製作された。先のシュローダー氏は、「だからこそ、今が展覧会を開く絶好のタイミング」だと言う。「絶対に揺るがないとわれわれが信じてきた確実性が突然崩壊しました。その意味で、マグリットの不条理な言語は、正反対という矛盾をはらんだ組み合わせを表すのにふさわしいメタファー(隠喩(いんゆ))なのです」

 マグリットの世界では、暖炉から立ち昇る煙は実際は機関車から吐き出される煙であり、夜の街は昼間の青空で覆われる。

 シュローダー氏は、「動きのない全くの静寂で、すべてが石化した世界です。われわれも見た瞬間、衝撃で凍りついてしまいます」と表現した。

 展覧会は来年2月26日まで。(c)AFP