【7月14日 AFP】米国で33年前に創設されながら、まだ1度も授賞されたことがなかった「人力ヘリコプター賞」をカナダ・トロント大学(University of Toronto)のチームが獲得し、賞金25万ドル(約2500万円)も手にした。

 国際ヘリコプター学会(AHS International)は12日、これまで授賞したことのなかった「イゴール・シコルスキー人力ヘリコプター賞(Igor Sikorsky Human-Powered Helicopter Award)」を初めて同大チームに贈ったと発表した。

 この賞は、地上3メートルに達して人力だけで60秒間、10メートル四方の範囲内で空中静止できるヘリコプターの製作に与えられるものだが、長らく「受賞は不可能」と思われてきたと、同学会のマイク・ハーシュバーグ(Mike Hirschberg)理事は語る。

 この賞を獲得したのが、トロント大の学生と若い専門家の約20人のチームが製作した「アトラス(Atlas)号」。機体はわずか55キロと非常に軽量だが、機体の全幅は49.4メートルある。ハーシュバーグ氏は「これは実用機の製作ではない。若いエンジニアに挑戦を与え、創造性と技術的スキルを培ってもらうためのものだ」と説明した。

■パイロットのこぐ力は普通の人の2倍

 勝利のフライトとなった6月13日の飛行では、この賞金獲得のために学生たちが設立したベンチャー「アエロベロ(AeroVelo)」の主任空気力学者で、スピードスケートの選手でもあるトッド・ライヘルト(Todd Reichert)氏(31)がペダルを踏んだ。その後約1か月かけてこの飛行の技術的な検討が行われ、12日に賞金が正式に授与された。

 アエロベロの共同創設者、キャメロン・ロバートソン(Cameron Robertson)氏(26)によれば、アトラス号は体重160ポンド(約72.6キロ)以下の人がこぎ手となるよう設定されている。また、こぎ手には、1馬力というかなり強い力が要求される。平均的な人のこぐ力は、0.5馬力程度だという。

 賞の名前となっているイゴール・シコルスキー(Igor Sikorsky)は、ロシア生まれのエンジニア兼パイロットで、1919年に米国に渡り、1939年に世界で初めてシングルローターのヘリコプターの飛行を成功させた。

 トロント大のチームは今回の受賞で、アエロベロにさらに投資し、現在の研究をさらに深められると喜んでいる。ロバートソン氏は「僕たちの資金は豊富じゃないが、この賞金でわれわれや学生が好きなことを続けることができる」と語った。

■難関で賞金は25倍に

 賞金はこの賞が創設された1980年には1万ドル(現在の為替レートで約100万円)だったがほどなく2万5000ドル(同約250万円)に増額された。しかし受賞者が出ず、1990年代と2000年代の最初の10年間にこの賞が低迷したため、この賞のスポンサーである米ヘリコプターメーカー、シコルスキー・エアクラフト(Sikorsky Aircraft)は2009年、賞金を25万ドルに増額することに同意した。

 チームの次の目標は、人力で時速120キロに達することができる超軽量の自転車の製作に挑戦することだという。

 イゴール・シコルスキー人力ヘリコプター賞に最初に挑戦したのは1989年のカリフォルニア州立技術専門大学(California Polytechnic State University)で、AHSによれば、このときは地表から20センチほど上で8.6秒間、滞空した。

 また1994年には、日本大学(Nihon University)のチームが、20秒近い滞空時間記録を出していた。(c)AFP/Kerry SHERIDAN