【5月6日 AFP】火星への有人探査ミッションについて、米航空宇宙局(NASA)と民間の専門家らは、大きな課題は残っているものの、今後20年以内に実現が可能という同じ見解を示している。

 米ワシントンD.C.(Washington D.C.)で6日より3日間にわたり開催される会議では、NASAの高官らに加え、人類で2番目に月面を歩いたバズ・オルドリン(Buzz Aldrin)飛行士など、宇宙開発を代表する面々が一堂に集まり、最新の火星プロジェクトについて話し合う。

■「必要なのは奇跡ではない」

 NASAのチャールズ・ボールデン(Charles Bolden)長官は「火星への有人ミッションは優先事項の1つ」と強調してきたが、米国の財政危機がプロジェクトの大きな障害の1つになっている。NASAに割り当てられる予算の米連邦予算全体に対する割合は、月探査のためのアポロ(Apollo)計画を実行中だった1960年代の4%から、現在は0.5%までに減っている。

 NASA初の火星計画の責任者を務めた米スタンフォード大学(Stanford University)のG・スコット・ハバード(G. Scott Hubbard)氏は「今すぐに始めれば、20年以内に火星に着陸することは可能」と話す。「必要なのは奇跡ではなくて、技術工学的な課題に対処するための資金と計画だ」

 ハバード氏によると、帰還に必要な燃料をどうやって運搬または生産するかという周知の問題に加えて、火星上に居住環境を構築するために必要と試算されている30~40トンの物資を運ぶことなどが最も大きな課題になるという。昨年8月、緊張の7分間の末に火星着陸に成功した火星探査車キュリオシティー(Curiosity)でも、総重量は1トンにすぎない。

 NASAは現在、遠距離宇宙探査のための大出力ロケット「SLSSpace Launch System)」とカプセル型有人宇宙船「オリオン(Orion)」の開発を進めている。

 ハバード氏は、火星に向かう宇宙船は全て、原子力エンジンを搭載するべきだと話す。原子力エンジンは持続的な推進力が得られるため、航行時間を3か月ほど短縮でき、宇宙放射線のリスクを減らすこともできるからだ。地球と火星の間の距離は、互いの位置関係によって異なり、最短で5600万キロ、最長で4億キロにもなる。

■放射線、身体的・心理的影響が課題

 技術的な課題に加えて、長期の宇宙旅行が人体に及ぼす悪影響、特に宇宙放射線に関しては、まだ十分に解明されていない。

 宇宙飛行士の訓練を行っているジョンソン宇宙センター(Johnson Space Center)でNASAの宇宙生物学・身体科学プログラム責任者を務めるスティーブン・デービソン(Stephen Davison)氏は「宇宙放射線への被ばくの問題は、対処・理解する必要がある人体へのリスクであるのは確かだ」と語る。「乗組員のがんリスクと中枢神経系への影響をさらに詳細に」理解する必要があるという。

 同氏はまた、国際宇宙ステーション(International Space StationISS)の乗組員の半数以上が、ある程度の視力の変化や頭蓋内圧の増大を経験しているとも述べている。一方で、骨密度や筋力の低下など、その他の生理的変化は、運動によって軽減できる。

 放射線、生理的変化に次ぐ3つ目の主な課題は、窮屈な空間に閉じ込められ、隔絶されて長期間を過ごす宇宙飛行士の心理面の問題だ。デービソン氏によると、火星旅行が人体に及ぼす影響に関する事前の調査・研究を科学者らが完了するのには、「最低でも」10年を要するという。(c)AFP/Jean-Louis Santini