【5月1日 AFP】科学の重大な疑問の1つ「反物質にも同じ重力の法則が適用されるのか」の答えの探求に大きな前進が見られたとする、欧州合同原子核研究所(European Organisation for Nuclear ResearchCERN)の実験チームによる研究が、30日の英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に発表された。

 反物質は、約140億年前のビッグバン(Big Bang)の瞬間には物質と同じ数だけ存在したと考えられているが、現在ではほとんど存在していない。そのため、反物質粒子を科学的に研究するには、反物質を製造する必要がある。宇宙では、反物質粒子は主にブラックホールの周囲や宇宙線に存在していると考えられている。

 科学者たちは50年以上にわたり、重力が反物質粒子に引力を及ぼすのか反発力を及ぼすのかについて議論してきた。反物質は、従来の物質と同様に落下するのか、あるいは「反重力」の作用で「上昇」するのだろうか。

 この疑問に対する答えは今のところまだ出ていないが、CERNのALPHA(Antihydrogen Laser Physics Apparatus)実験チームは、最終的な解決につながると思われる試験の開始に成功したという。

 反物質粒子は、電荷などの特性に関して、通常の物質粒子とは正反対の性質を持っている。例えば、正の電荷を持つ陽電子は、負の電荷を持つ電子の反粒子に相当する。

 粒子と反粒子が出会うと、一瞬でエネルギーを放出して互いに消滅する。ビッグバン後も数の均衡が保たれていたなら、この宇宙が出現することはなかったはずだ。

 現在の不均衡がどのようにして発生したかは、素粒子物理学の大きな謎の1つになっている。反物質が重力から「反発」作用を受けると仮定すると、現在の宇宙がほぼ通常の物質でできている事実を説明できるとする説もあるが、いまだ確証は得られていない。

■反物質に作用する重力の効果を測定

 CERNのALPHA実験チームは今回初めて、「自由落下」状態の反物質に作用する重力の効果を直接測定した。ただし、この測定値は試験的なもので、非常に大きな幅の範囲内にある。

 実験ではまず、最も単純な原子である水素原子の反物質に相当する「反水素原子」の製造と捕捉(トラップ)を行う。反水素原子は磁気トラップ装置内に保持され、トラップのスイッチを切ると、トラップから「自由落下」して装置の壁に衝突し、エネルギーを放出して一瞬で消滅する。

 この反水素原子が壁のどの部分にどのくらいの速度で衝突するかを解析することで、重力が反水素原子に対して通常の水素原子とは異なる作用を及ぼすかどうかの判別が可能になるという。

 反物質も物質と同じ挙動を示すとすると、慣性質量に対する重力質量の比も同様に1になるだろう。この比が1未満なら、反物質は上向きに「落下」することになる。重力質量は、重力に対する物体の反応によって決まり、慣性質量は、加速度に対する物体の抵抗の大きさを示すものだ。

 今回の初期段階の測定から研究チームは、この比の範囲をプラス110からマイナス65に限定することができたという。この幅については、実験装置と方法のさらなる精度の向上によって、より詳細な値が得られることが見込まれている。

 声明によると、実験は現在改良中で、来年の再開時にはさらに正確なデータが得られるようにできるはずだという。(c)AFP/Mariette LE ROUX