【3月26日 AFP】エミリー・ホワイトヘッド(Emily Whitehead)さん(7)はある意味で重要人物だ──彼女は、自らの免疫細胞を、がん細胞を攻撃する細胞に作りかえる治療を受け、これまでのところ白血病に打ち勝っている。

 米国での数十年間の研究の中で、エミリーさんは成功の兆しをみせている初めての子ども。これまでのところ11か月間にわたって回復を続けており、同研究には現在、他に3人の子どもと数十人の成人が参加中だ。

 昨年末、研究の暫定結果が発表されると、エミリーさんは一躍有名になった。イヌと遊んだり読書をしたり、屋外を探検したりして日常生活を楽しんでいるエミリーさんだが、母親のカリ(Kari Whitehead)さんによると、外出時には写真撮影を頼まれたり、中にはエミリーさんに触りたいという人までいるという。

 米国の研究チームは、次世代のがん治療開発に向けた研究を加速させている。いずれ、がん治療は一生に1度の薬剤投与で済み、化学療法や骨髄移植が不要になるかもしれない。

■患者のT細胞を「がんを攻撃する細胞」に作り替える

 高リスク型の急性リンパ性白血病(ALL)を発症したエミリーさんの事例は、25日の米医学誌「ニューイングランド医学ジャーナル(New England Journal of Medicine)」に詳細が掲載された。

 研究を行ったのは、米ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)アブラムソン・がんセンター(Abramson Cancer Center)のカール・ジューン(Carl June)氏率いる研究チーム。研究を支援した製薬大手ノバルティス(Novartis)は昨年、白血病、その他のがんに対するキメラ抗原受容体(CAR)技術を同大にライセンス供与する契約を発表。契約の一環として研究所に2000万ドル(約1億9000万円)の資金提供を行った。

 研究チームのマイケル・カロス(Michael Kalos)氏によると、治療方法は、T細胞と呼ばれる白血球を患者の体内から取り出し、がん細胞を特定して攻撃する細胞に作り替えるというもの。カロス氏は「このコンセプトは少なくとも50年ほど前からあり、ヒトを対象にした臨床試験も過去20年間ほど行われてきたが、患者に戻したT細胞が患者の体内で生存するのが極めて困難で、限定的な成功しか収めてこなかった」と説明する。だが、T細胞に組み込む遺伝子を運ぶための「乗り物」に、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の近縁のウイルスを使うようになってからは生存時間が延びたという。

■さまざまながん治療で臨床試験

 ジューン氏の研究チームは2011年に最初の成果を発表している。これは、慢性リンパ球性白血病(CLL)を発症した成人3人に対する研究だったが、2年以上が過ぎた今もなお、3人のうち2人は疾患を発症せずに生活を送ることができている。現在は10人以上の患者が新たにこの治療を開始しているという。

 カロス氏は、患者の大半で非常に強い反応が得られているものの、ごく一部の患者ではまったく反応がみられておらず、その原因を現在究明中だと語る。「患者由来かもしれないし、製品に原因があるのかもしれないし、腫瘍に原因があるかもしれないし、まったく別の何かによるのかもしれない」

 一方で、成人の脾臓(すいぞう)がん患者と中皮腫患者に対する初期試験も始まった。まだ米国内だけでの試験だが、研究チームはいずれ世界規模に拡大したいと考えている。

■成功例続けば数年以内の実用化も

 これらの治療方法はまったく新しい地平を切り開くものだ。すべての患者に対して、患者個人に合わせた治療が必要になり、患者は何年間も免疫系を強化するための抗体治療を受けなければならない。もしかしたら治療は一生続くかもしれない。

 だが、これまでのような成功が続くのであれば、この治療方法はあと数年で市場に流通する可能性もある。カロス氏は「われわれの事例では、データは極めて前途有望なので、さらに劇的な成果をともなった第II相臨床試験を行い、(当局に対して)『これについて承認を検討していただきたい』と言いに行けるかもしれない」と期待とともに語った。(c)AFP/Kerry Sheridan