【12月18日 AFP】米国防総省関連機関が支援する研究チームが、脳波で制御する義手の最先端をいくロボットハンドを製作したと、17日付の英医学専門誌ランセット(The Lancet)に発表した。

 さらに開発を重ねれば「長期のまひを抱える人も、日常生活を営むための手の位置や向き、動作などを命じる自然で直感的な指令信号を回復しうる」とチームは期待をかけている。

 研究者たちが長年関心を持っているのは、動作に関連する脳の部位の脳波をインプラントによって拾い、その信号をコンピューターのコードに書き換え、義肢に動作指令を送る「ブレーン・マシン・インターフェース」(BMI)だ。

 今回の研究ではこのうち最初の脳波をコンピューター・コードに書き換える部分(アルゴリズム)が大幅に改善された。研究チームが拠点とする米ピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)のアンドリュー・シュワルツ(Andrew Schwartz)教授は「無傷の脳が四肢の動作を制御する方法に非常に似せたコンピューター・アルゴリズムに基づいたモデルを使い、従来とはまったく違う角度から取り組んだ結果、従来研究よりもずっと正確で自然な動きを義手にさせることができた」と語っている。

■まひの女性、2日目から義肢を操作

 同チームは、脊椎小脳変性症と呼ばれる病気で首から下がまひし、四肢が動かせない52歳の女性の左脳の運動皮質に二つの微小電極アレイを埋め込んだ。手術から2週間後、義肢が装着され、女性は14週間の訓練を開始した。ところが2日目にはもう自分の意志で義肢を動かせたという。

 この訓練では、手でつかむ、小さな物を動かす、「コーン」を重ねる、ボールを弾ませるなど9つの課題の中でスキルの獲得を目指したもので、最終的に女性は最高91.6%という高確率で課題をこなし、しかも開始時よりも30秒以上、早く完了できるようになった。
 
 研究チームでは本当の変化だけを把握するために、偶然や事例証拠を排除する目的で設計した徹底した基準試験を用いており、今回の例は確かに成功だと自信を持っている。

 次の段階としては、できれば有線ではなく無線で患者の脳と義手を接続し、義手の表面が熱いか冷たいか、あるいは義手が触っている面が粗いか滑らかかといったことを、ロボットハンドに内蔵したセンサーが使用者に伝えられるどうかだろう。

 今回の研究の出資元の一つは、米国防総省の技術開発機関、国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects AgencyDARPA)で、同局では傷病退役軍人による利用を含め、未来技術の軍事利用を研究している。(c)AFP