【10月22日 AFP】月の誕生は地球と巨大隕石(いんせき)とが衝突した結果によるもの──この37年前に提唱された説を裏付ける科学的痕跡が新たに見つかったとする研究論文が17日の英科学誌ネイチャー(Nature)で発表された。

 地球の衛星である月が誕生した過程については、天文学者たちが1975年の会議である仮説を提唱した。数十億年前、まだ生まれてまもなかった地球と、火星ほどの大きさの隕石が衝突して月ができたという「巨大隕石衝突説」だ。学者たちはギリシャ神話の月の女神セレネ(Selene)の母親の名にちなんで、この隕石を「テイア(Theia)」と名づけた。

 この説は、衝突によってテイア全体と原始地球のマントルの大半が溶解、蒸発し、その後冷えて凝集したものが月になったと主張するもので、月が太陽系の衛星中で5番目に大きく、地球の4分の1程の大きさがあり、しかも地球からわずかしか離れていないことを説明できるとされた。ただコンピューター・シミュレーションを用いて同現象が現実に起きていた可能性が示されるまで、この説は脇へ追いやられていた。

 しかしこの度、アポロ(Apollo)計画で持ち帰られた月の土壌を質量分析計で精査した結果、この説を裏付ける化学的証拠を発見したとする論文が発表された。論文によると、月の土壌には比較的重い亜鉛同位体がわずかに多く含まれていた。蒸気雲の中で重い同位体が軽い同位体よりも急速に凝集したことが原因と考えられる。このわずかな、しかし決定的な差は同位体分別と呼ばれる。

「われわれが月の石から測定した同位体分別の規模は、地球や火星の石で測定されるものの約10倍だった。これは非常に重要な違いだ」と米ワシントン大学(University of Washington)のフレデリック・モワニエ(Frederic Moynier)准教授(地球惑星科学)は語る。
 
 同位体分別の測定を行ったのは過去4回のアポロのミッションで持ち帰られた月の石20サンプルで、これらは月面上の異なる地域および月隕石から採取されたものだ。これらサンプルを、火星に由来するものと特定されている隕石10個と、さらに地球上の岩石と比較分析した。すると月面上のサンプルでは、一般的な亜鉛が激減していた一方でより質量の大きい亜鉛の同位体を示す痕跡がみられたという。

 亜鉛の大量蒸発は、局地的な火山活動などよりも、隕石衝突のような巨大な出来事を示唆すると研究者らは主張している。米スクリップス海洋研究所(Scripps Institution of Oceanography)のジェームズ・デー(James Day)氏も「亜鉛を蒸発させるほどの熱が生じるには、月全体が関与するような大規模な溶解が必要だ」と説明した。

 また地球が水に恵まれている一方で、なぜ月があれほどまでに乾燥しているのかといった謎を解くにも「巨大隕石衝突説」が鍵になりそうだ。デー氏はこう述べる。「他の惑星で生命体を探そうとする時、(地球と)同様の条件がおそらく必要だと考える必要がある。ある惑星における生命誕生を考える際、そうした条件がどのようにして得られるのかを理解する必要がある」(c)AFP