【2月10日 AFP】手のひらほどの大きさしかないフィリピンメガネザル――これまで「鳴かない」と考えられていたこの世界最小の霊長類が、実は天敵にも獲物にも聞こえない超音波の周波数帯域で「会話」していたとする研究が8日、英国王立協会(British Royal Society)の専門誌「バイオロジー・レターズ(Biology Letters)」に発表された。

 周波数20キロヘルツ(kHz)以上の超音波帯で音声信号をやり取りできるのは、ほ乳類ではクジラの一部、イエネコ、数種類のコウモリなどに限られるとされている。今回、これらの動物のほとんどが周波数帯の高さでフィリピンメガネザルに到底かなわないことが、米国とフィリピンの合同研究チームによって明らかになった。

 米ハンボルト州立大(Humboldt State University)のマリッサ・ラムザイアー(Marissa Ramsier)氏率いる研究チームは、フィリピン・ミンダナオ(Mindanao)島で2日間かけ、フィリピンメガネザルの鳴き声を分析した。まず、6匹を特注の音響室の中に入れて高音域に対する感度を調査。続いて、野生環境で35匹分の超音波帯の鳴き声を録音し、周波数を測定した。

 すると、フィリピンメガネザルの耳は90 kHz以上の音を聞き取ることができ、70 kHz前後で発声していることが分かった。また、発声の最低周波数は67 kHzだったが、これはコウモリと一部げっ歯類を除けば陸生ほ乳類の中で最高値という。

■3つの利点

 高周波数帯での会話には、幾つかの利点があると考えられると研究チームは指摘している。

 1つ目は、「サイレントアラーム」が可能になる。超音波帯であれば、天敵に居場所を知られずに警戒音を発したり受け取ったりできるからだ。

 2つ目は、主食のコオロギやゴキブリから、ガ、キリギリス、孵化したての鳥まで、餌となる生き物が立てる音を「盗聴」することが容易になる。

 さらには、熱帯環境特有の低周波の「ノイズ」やざわめきをフィルタリング(除去)する効果もあると推測されるという。(c)AFP/Marlowe Hood