【3月18日 AFP】ペニスはごわごわした感覚毛で覆われていない。脳はぱんぱんに膨らんでいる――。ほ乳類ではヒトにしか見られないようなこうした特徴は、新たな遺伝子の出現というよりは進化の過程で遺伝物質が失われたことに起因しているという研究成果が、10日発表された。

 ホモ・サピエンス(現生人類)を進化的に近い大型類人猿と隔てるものは何なのだろうか。特にチンパンジーのDNAは、ヒトのDNAと97%も重複している。

 その研究において、これまでは、ヒト特有の遺伝子が生み出された仕組みよりは遺伝子そのものを見つけることに主眼が置かれてきた。だが今回の新発見は、新たな方法論を提示するものだという。

 米スタンフォード大医学部(Stanford University School of Medicine)のギル・ベジェラノ(Gill Bejerano)准教授の研究チームは、チンパンジーとその数百万年前にさかのぼる祖先に深く根付いた500以上のDNA群が、ヒトゲノムには全く存在しないことを見いだした。一方、ヒトの直近の祖先とされるネアンデルタール(Neanderthal)人には一部が存在していた。このことは、ネアンデルタール人が少なくとも50万年前までにはヒトの祖先に至る枝から分岐していたことを意味するという。

■「調節DNA」の欠落がもたした体の構造変化

 調節DNAが制御する遺伝子ではなく、調節DNAそのものが少しでも欠落すると、生体構造にそれに応じた変化が起こる。行動面の変化はごくわずかと考えられる。

 だがベジェラノ氏は、調節DNAの欠落は新たな特徴、あるいは新たな種の出現に帰結する可能性があると指摘する。

 したがって研究は、ヒトにおける調節DNAの欠落とそれに関連した特定の構造変化をリストアップし、主に2つの分野の変容について説明を試みた。
 
 1つ目の変容は、脳細胞がテストステロンなどステロイドホルモンの存在を通知する方法に影響を及ぼし、ヒト特有のペニスをもたらした。

 大型類人猿などのほ乳類のオスにはたいてい、ペニスの感覚毛などの成長をつかさどる性ホルモンを促進するDNAがあるが、ヒトにはこれがない。そのためヒトは感覚毛を持てず、触覚感度が鈍ってしまったが、その「見返り」として性交の持続時間が伸びた。

 2つ目の変容は、ヒトの脳の発達に影響をもたらした。チンパンジーや初期の霊長類に見られるDNAが欠落したことは、腫瘍(しゅよう)などの神経の発達を阻止する遺伝子を活性化させ、こうした「抑制」が脳の発達を促進してヒト特有の脳構造をもたらしたと考えられるという。

 このような変化が、1対1の恋愛感情や、ヒトの比較的無防備な幼児を育て上げる上で必要とされる複雑な社会構造を生み出さす原動力になった可能性があると、研究チームは指摘している。(c)AFP/Marlowe Hood