【9月25日 AFP】快適な生活に必要なものが全てそろってるとはいかないが、アーロン・ハルス(Aaron Hulse)氏(29)は、この宇宙探査車は快適な第2のわが家のようなものだと考えている。

 地球から遠く離れた惑星や小惑星の乾燥した地表とよく似た米アリゾナ(Arizona)州の砂漠で、何日も一緒に時間を過ごすことになる北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty OrganisationNATO)の専門家たちにとって快適さは非常に重要なポイントだ。

 最近、この宇宙探査車「SEV」車内で米航空宇宙局(NASA)の同僚らと7日間を過ごしたばかりのハルス氏は、「この狭さに慣れるしかないんだよ」と、こともなげに語る。アリゾナ砂漠の岩がちな荒れ地で探査車を自由自在に運転しながら、ハルス氏は「座席は倒せるし、実際快適なんだよね」と車内後部の居住スペースを指さして語った。

 ハルス氏とNASAの科学者・技術者チームは、2週間にわたりNASAのさまざまな宇宙探査車などの性能を試しながら、そうやって過ごしてきた。「かなり快適だと言える。時間があるときは映画を観たりゲームをしたり、やりたいことは何でもできるんだ」と言ってハルス氏は、ごつごつした地表に探査車を止めた。

■アリゾナ砂漠の「Desert RATS」ミッション

 NASAチームは、宇宙探査設備や技術を実際に使用される環境と似た場所で次々と短期間にテストする「Desert RATS」プロジェクトの試験を終えたばかりだった。RATSは「リサーチ・アンド・テクノロジー・スタディーズ(Research and Technology Studies)」の略だ。

 このプロジェクトは、将来の有人宇宙ミッションのために最新技術を開発する研究の一環として、NASAが実験室で開発した技術を、月や惑星などの過酷な環境とそっくりな険しい丘や干上がった川の河床のほこりの中で実地試験するもので、アリゾナ砂漠北部のブラックポイント・ラバフロー(Black Point Lava Flow)試験場で13年前から行われている。

「ここに来るとシステムに強いストレスをかけることができる」プロジェクト科学者のロブ・アンブローズ(Rob Ambrose)氏は語る。アンブローズ氏らRATSミッションのメンバーは、ロボット工学分野で達成した成果を盛り込んだ最新機材を披露したくて仕方がないようすだ。

■ヒト型ロボット「ロボノート」、6本脚の運搬車「ATHLETE」、居住用「HDU-PEM」

 NASAの開発したヒト型ロボット「ロボノート(Robonaut、ロボ飛行士)」は11月に打ち上げられる予定のスペースシャトル、ディスカバリー(Discovery)で国際宇宙ステーション(International Space StationISS)に運ばれ、宇宙飛行士の作業を手伝うことが決まっている。

「非常に現実的な環境での試験だ」と、スペースシャトルに数回の搭乗経験があるNASA宇宙飛行士のマイケル・ガーンハルド(Michael Gernhardt)氏は語る。「このリアリティが必要なんだよ」

 この2週間で探査車は死火山の火口を何か所も超え、150キロ以上を走破したが、厳しい地形の中を良く持ちこたえたと言うガーンハルド氏は、河床の端にたどり着いた車両のモーターがうなる中、「こいつは試験の中で学習をしてる。それが重要なんだ」と付け加えた。

 今回の実地ミッションでは、遠く離れた惑星や小惑星で居住も可能な科学研究用の新型探査モジュールや、採取した岩石の組成分析を行う設備、宇宙での救急医療処置が可能な設備などを試験したほか、改善された燃料電池システムや通信システムも披露された。

 探査車はテキサス(Texas)州のジョンソン宇宙センター(Johnson Space Center)などの施設から遠隔操作も可能だという。研究には大学や企業も参加している。NASAはカナダや欧州の宇宙機関にも参加を呼びかけている。オバマ政権は、2025年までに宇宙飛行士を小惑星に送り込むという目標を掲げている。(c)AFP/David Anderson