【9月13日 AFP】人間の皮膚とほとんど変わらない「触角」を備えた「電気の皮膚」の開発に米国の2つの研究チームが成功し、英科学誌「ネイチャー・マテリアルズ(Nature Materials)」にそれぞれ報告を発表した。

 新開発の素材は、人間の皮膚が感じ取ることのできる圧力とほぼ同程度の圧力に反応し、反応速度も人間の皮膚とほぼ同様という。乗り越えるべき重要な課題はまだ残っているものの、現在の不器用なロボットや義手を触覚センサー機能付きのより高性能なものに替えることを目指した次世代のロボット工学・義肢開発に向けた大きな一歩といえる。

■低コスト素材で人間の触覚を再現

 米カリフォルニア大学バークレー校(University of California at Berkeley)のAli Javey准教授(コンピューターサイエンス)率いる研究チームは、ゲルマニウムとシリコンをポリイミドフィルムに貼り付けたナノワイヤーを使った「e-skin(eスキン)」を開発。これにナノサイズのトランジスタを配し、柔軟性のある感圧ゴムをかぶせた。

 49平方センチメートルのこの試作品は、0~15キロパスカル(kPa)の圧力を感知できる。これは、キータイピングや物を持つなど人間の日常活動で必要となる圧力に相当する。

 一方、米化学界のトップ女性化学者の1人と評される米スタンフォード大学(Stanford University)のZhenan Bao准教授率いる研究チームは、Bao准教授のチームは、圧力量によって厚さが変化するゴムフィルムを使い、素材にコンデンサを組み込んで変化を測定するアプローチから研究を進めた。

 この素材は引き延ばしたりすることはできないが、Bao氏はAFPの取材に「反応速度は人間の皮膚に匹敵し、非常に速く、ミリ秒レベルだ」「実質的に、圧力を瞬時に感じることができる」と説明した。

 これらの研究について、アイルランドのダブリン大学トリニティカレッジ(Trinity College Dublin, )のジョン・ボーランド(John Boland)教授は、人工知能分野における「重要な一里塚」となる研究成果だとコメントし、特に低コスト加工の素材を利用したことを高く評価した。

■「人間の皮膚」目指しセンサー開発へ

 人間の五感を電子装置で代替するセンシング技術研究は、視覚と聴覚では代替技術の開発に成功したが、嗅覚と味覚は出遅れている。また一般的に、触覚は最大の難関と考えてられてきた。

 今後はセンサー機能の向上を目指すことが重要な研究の1つとなる。人間の皮膚は圧力だけでなく、たとえば痛みが危険の存在を知らせるなど、多くの信号に反応している。

 また、別の課題としてBao氏は、「人工皮膚を人間の神経系と接続することは、非常に困難な研究になるだろう」と指摘する。

 いつの日か、人工皮膚は化学物質や生物学的因子、温度、湿度、放射線、汚染物質などに反応する多種多様なセンサーを搭載するようになるかもしれない。「宇宙など、人間に危険を伴う環境にロボットを送り出すような場合に、この技術は非常に役立つだろう。情報を収集して送信することができる」と、Bao氏は語った。(c)AFP/Richard Ingham