【1月23日 AFP】気球による初の無着陸世界一周に成功したスイス人精神科医、ベルトラン・ピカール(Bertrand Piccard)氏(51)が、ソーラー飛行機での世界一周に挑戦しようとしている。

「わたしたちがやりたいのは、再生可能エネルギーによって日夜飛び続け、距離の制限なく飛行できることを示すことだ」。アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ(Abu Dhabi)で開かれた、最新の新エネルギーや環境技術を紹介する世界最大規模の展示会「世界未来エネルギーサミット(World Future Energy Summit)」でピカール氏は語った。

■ソーラー飛行機で世界一周を目指す

 ピカール氏はソーラー飛行機「ソーラー・インパルス(Solar Impulse)」で、20~25日かけて世界一周を目指す。戦闘機のパイロットだったアンドレ・ボルシュベルク(Andre Borschberg)氏と世界各地で操縦を交代しながら、平均時速約70キロで飛行する予定だ。

「飛行機が燃料なしで世界一周できれば、同じことが自動車、暖房、エアコン、コンピューターで不可能だとは誰も言えなくなるだろう」とピカール氏は語る。

 前年12月、ソーラー・インパルス試作機の最初の試験飛行がスイス・チューリヒ(Zurich)近郊で行われた。試作機はカーボン・ファイバー製で重量はわずか1600キロ。翼幅64メートルの主翼にはソーラーパネルがはめ込まれ、最大出力10馬力の電気モーター4基を備えている。

 昼夜連続飛行の構想は、昼間の飛行中にソーラーパネルが吸収したエネルギーをリチウムポリマー電池に蓄電し、そのエネルギーを夜間の飛行に使うというもの。

 複数の飛行機メーカーがこの構想の実現は不可能だとさじを投げた後、ピカール氏はあるレース用ヨットの製造会社に白羽の矢を立てた。

「彼らは不可能だということを知らなかった。だからやり遂げたんだ」とピカール氏は語る。

■冒険家一族の血

 この突拍子もない試みにピカール氏が夢中になっているのには、多分に家族の影響があるようだ。

「わたしは冒険家の家系に育ち、環境や自然資源に大きな懸念を持っている」「わたしの祖父は初めて(気球で)成層圏に達し、父は1960年に潜水艇で誰よりも深く深海に潜行した」と家庭環境を明かした。

 1999年、ブライアン・ジョーンズ(Brian Jones)氏とともに気球による初の無着陸世界一周に成功したピカール氏。この成功で得た名声はピカール氏が新プロジェクトの資金を集めるうえでも役に立ったという。

 7000万ユーロ(約89億円)規模のプロジェクトは7年目に突入したが、まだ先は長い。世界一周飛行が行われるのは早くても2012~13年ごろの予定だ。

 今年は高高度での飛行のほか、昼間・夜間の飛行を試し、成功すれば、試作機を改良するか、新たな飛行機を作って大西洋横断に挑戦する。

「(史上初めて大西洋を横断したチャールズ・)リンドバーグ(Charles Lindbergh)の飛行を燃料なしで再現しなければならない」とピカール氏は語る。

■世界で再生可能エネルギー利用をアピール

 操縦士交代のための着陸は、各地でソーラー・インパルスの技術を紹介し、人びとに日常生活でその技術を活用してもらうことを促す機会にもなる。

「コペンハーゲン(Copenhagen)(の国連気候変動枠組み条約(UN Framework Convention on Climate ChangeUNFCCC)第15回締約国会議(COP15))に参加して、多くの人が警告を発したり嘆いたりする人たちにうんざりしていることを知った」とした上で、「必要なのは問題ではなく解決策だ。偉大なことを成し遂げるのは可能だということを示さなければならない」とプロジェクトの意義を示し、飛行機はそのメッセージを伝える良い媒体だと語った。(c)AFP/W.G. Dunlop