【8月1日 AFP】海洋の水の混合において大小の海洋生物が密かに重要な役割を果たしているかもしれない――。このような研究結果が29日発行の英科学誌「ネイチャー(Nature)」に発表された。

 いわゆる「海洋混合」は、赤道と南北両極間で暖流、寒流を作り出すとともに、深層部の冷たく栄養豊富な海水と表層部の太陽で温められた海水をかき混ぜている。

 海洋混合は海洋生物多様性にとって非常に重要な役割を果たしている。さらに、地球の気候を維持する上でも欠かせないとの見方が出てきている。

 魚類などの海洋生物の移動が海水の移動に大きく寄与しているとの概念は1950年代半ば、進化論などで知られるチャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)の孫で同名の科学者チャールズ・ダーウィン氏によって提唱された。

 しかしこの概念は、60年代に行われた、海洋生物が作り出す海流と海全体の海流を比較する実験を元に、「疑わしい」としてはねつけられてしまう。実験では、微少なプランクトンや魚類が移動することで作り出す渦がすぐに消えてしまうことが示されたのだ。

 これを根拠に、海洋混合において生物は重要でなく、注目すべき要因は風と潮の満ち引きだけだとされた。

■クラゲとともに深層の海水が上昇

 しかし、カリフォルニア工科大学(California Institute of Technology)のカカニ・カティヤ(Kakani Katija)氏らの研究チームの研究により、「20世紀のダーウィン」の仮説は再度日の目を見ることになるかもしれない。

 チームは、太平洋に浮かぶ島国パラオの塩湖で実験を行った。クラゲの群れの周辺に染料をまき、クラゲと周辺の海水の動きを撮影すると、上昇するクラゲとともに大量の冷たい海水が表層に移動することが示された。

 かき混ぜられる海水量は、海洋生物の大きさや形のほか、群れの大きさ、移動パターンなどによって決まるという。

 チームは60年代の実験について、垂直方向の海水の入れ替えよりむしろ、海洋生物が作り出す波や渦に着目していたとし、着眼点が間違っていたと指摘している。

 海洋混合は炭素循環の1つの要素だ。

 プランクトンは海洋表層部で、光合成により二酸化炭素(CO2)を大量に消費する。プランクトンが死ぬと、CO2を大量に含んだ死がいがゆっくりと海底に沈み、数千年にわたりCO2を効果的に貯蔵する。海流によって表層部に運び上げられることもある。

 一方、フロリダ州立大学(Florida State University)のウィリアム・デュアー(William Dewar)氏は「ネイチャー」に寄せた解説で、「細部にわたる検討に耐えて、生物による海洋混合という考え方が確立すれば、気象科学のパラダイムシフトが起きるだろう」とし、今回の研究を「通説に挑戦した」と評価している。(c)AFP