【7月29日 AFP】人はなぜ歩くときに腕を振るのか。科学者らを長年悩ませてきたこの疑問を解いたとする論文が、29日発行の「英国王立協会紀要(生命科学版、Proceedings of The Royal Society B)」に発表された。

 腕を振るには筋肉が必要であり、筋肉に食物エネルギーを供給する必要もある。それならばなぜ、歩くときにわざわざ腕を振るのか。「大昔に四足歩行をしていたときの名残だ」と説明する専門家もいる。

 今回、米国とオランダの3人の科学者は、人体を使った厳密な実験を行って謎の解明を試みた。

 チームはまず、腕振りにおける力と動きを検証するための力学モデルを構築し、10人の被験者に対して3種類の歩き方――「腕を普通に振る」「腕と足を同期させる(右足を踏み出すときに右腕を前に振る)」「腕は組むか体側にぴったり付ける」――をしてもらい、代謝コストを測定した。代謝コストは被験者が呼吸によって消費する酸素とはき出す二酸化炭素から算出した。

 実験の結果、腕振りはマイナスよりもプラスに働いていることがわかった。

 たとえば、腕を振らないで歩く場合、肩の筋肉にわずかな回転・ひねりを加える必要が生じ、代謝エネルギーは腕を振る場合に比べて12%余計に必要となった。

 また、腕振りは、下肢筋肉のエネルギーの浪費につながる体の上下運動を抑制する働きがあることもわかった。腕を振らない場合、この上下方向の動きは63%も上昇した。

 腕と足を同期させる場合は、肩の筋肉を動かすエネルギー・コストは低減されるものの、代謝率は25%ほど跳ね上がった。

 研究を主導した米ミシガン大学(University of Michigan)のスティーブン・コリンズ(Steven Collins)氏は、「腕振りは四足歩行の名残りと言うよりは、エネルギーを効率よく使って歩行するために不可欠な方法だ」と話している。(c)AFP