【6月10日 AFP】天の川銀河に比較的近いところにあるM87銀河の中心部にあるブラックホールの質量は、科学者の予想を超えてはるかに大きい。2人の天体物理学者が、米カリフォルニア(California)州パサディナ(Pasadena)で9日開催された米天文学会(American Astronomical SocietyAAS)の会合で、このような研究結果を発表した。
 
 米国のカール・ゲプハルト(Karl Gebhardt)氏、ドイツのイェンス・トーマス(Jens Thomas)氏の両天体物理学者は、スーパーコンピューターを使った測定で、このブラックホールが太陽質量の64億倍であることを突き止めたと発表した。信頼できる技術を用いて測定された対象としては、過去最大という。

 このコンピューターは米テキサス大(University of Texas)のテキサス先端計算センター(Texas Advanced Computing Center)に設置されているローンスター・システムで、ローンスターは5840個の処理コアを持ち1秒あたり62兆回の浮動小数点演算を行う。ちなみに、最新鋭のノートパソコンでも、処理コアはわずか2個、1秒あたりの浮動小数点演算は100億回に過ぎない。

■M87銀河を選んだ理由

 M87銀河は、地球からの距離が5500万光年と天の川銀河から比較的近い。また、銀河核から光がジェット噴射のようにはき出され、ブラックホール付近で物質が渦を巻いていることでも知られている。以上のことから、ゲプハルト氏は、M87が超大質量ブラックホールの研究に最適と考えた。

 今回の測定結果は、ハワイのジェミニ北天文台(Gemini North Telescope)とチリにある欧州南天文台(European Southern ObservatoryESO)の望遠鏡VLTVery Large Telescope)による最近の観測で、実証済みだという。

■クエーサーの質量に関する疑問も解消か

 ゲプハルト氏は、今回の結果から、その他の大型銀河におけるブラックホールの質量も大幅に過小評価されている可能性があると指摘する。 

 今回の結果は、宇宙における物理法則を根本的に変える可能性も秘めている。特に、宇宙の初期に形成されたクエーサーの質量に関する疑問への手がかりを与えてくれそうだ。クエーサーは一種のブラックホールで、物質がこの外縁を横切ると明るく輝き、大量の放射を行う。

 クエーサーのブラックホールの質量は太陽質量の100億倍とされているが、局所銀河の中にこれほどの質量を持つブラックホールがあることは確認されていない。ゲプハルト氏は、クエーサーのこの質量が間違っているとの前提でM87の質量を従来の2-3倍に増やすと、問題はほぼ解決されるという。(c)AFP