【10月8日 AFP】南部陽一郎(Yoichiro Nambu)米シカゴ大名誉教授(87)は1960年に発表した素粒子物理学の「自発的対称性の破れ」理論が評価され、7日に08年のノーベル物理学賞を受賞した。

 素粒子理論に革命をもたらした南部理論は、素粒子物理学の標準模型の基礎となり、140億年前のビッグバンの成り立ちなど、さまざまな理論を確立したとされる。

 物理学賞をともに受賞した小林誠(Makoto Kobayashi)高エネルギー加速器研究機構(KEK)名誉教授(64)と益川敏英(Toshihide Maskawa)京都産業大学教授(68)は、この南部理論を発展させて、宇宙や物質の起源にかかわる「CP対称性の破れ」と呼ばれる現象を理論的に説明した。

 南部氏は、同僚たちから深く尊敬されている。プリンストン高等研究所時代の同僚、エドワード・ウィットン(Edward Witten)氏は、1995年発行の科学誌「Scientific American Magazine」の中で、「彼には先見の明があり過ぎるから、世の中の人は彼のことを理解できないだろう」と述べている。

 カリフォルニア大学バークレー校(University of California at Berkeley)の物理学者、ブルーノ・ズミノ(Bruno Zumino)氏は同誌に対し、「南部氏と出会ったばかりの頃は、彼の画期的な考え方について行けなくなることがたびたびあった。完全に理解できたときには10年が経過していたよ」と語った。

「彼の功績が認められるまでに時間がかかりすぎた」と話すのは、シカゴ大の50年来の同僚で1980年ノーベル物理学賞受賞者、ジェイムズ・クローニン(James Cronin)氏だ。南部氏を「極めて控えめな人物」と評するクローニン氏は、「南部理論は、科学者をあっと言わせたり、すぐに理解されたり、適用されたりするものではなかったかもしれない。だが、実験データが提示され、その内容が理解されるようになると、この理論で素粒子物理学のさまざまな現象を説明できることが明らかになった」と述べている。

 南部氏は1921年生まれ。1952年に東京大学で博士号を取得。同じ年に米国にわたり、プリンストン高等研究所やシカゴ大で研究を続け、1970年に米国籍を取得した。

 1982年に米国科学界の最高賞であるアメリカ国家科学賞(National Medal of Science)を受賞。ベンジャミン・フランクリンメダル(Benjamin Franklin Medal)、ウルフ賞物理学賞(Wolf Prize)、ロバート・オッペンハイマー賞(J. Robert Oppenheimer Prize)、マックス・プランク・メダル(Max Planck Medal)などの受賞歴を誇る。

 授賞式は、12月10日にストックホルム(Stockholm)で開催される。(c)AFP