【9月9日 AFP】スイスにある欧州合同素粒子原子核研究機構(European Organisation for Nuclear ResearchCERN)は10日に巨大粒子加速器「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」を稼働させる。「この実験で地球が消滅してしまうのでは?」と心配している人もいるが、そんな人たちを安心させる安全性評価が5日発表された。

■ネット上に「LHC実験で地球が消滅」の憶測

「LHCが放出する巨大なエネルギーが巨大なブラックホールを生みだして地球が飲み込まれてしまう」「ストレンジレットと呼ばれる粒子が発生して地球を奇妙な物質の塊に変えてしまう」――LHC稼働を前に、ネット上にはこうした様々な憶測が飛び交っている。

 プロジェクトは、CERNの科学者らが2003年に行った安全性評価を基に始動したものだ。今回CERNの物理学者5人が英国物理学協会の機関紙に発表した新たな安全性評価は、ちまたに蔓延する不安を一掃するために新たな視点で書かれている。

 LHCは「地球が高エネルギーの宇宙線の経路とぶつかった状態」を再現するが、安全性評価は、「このような衝突は、地球がこれまでに何十万回と経験してきたことだが、地球はいまだに存在しているではないか」と指摘する。

 LHCでは、反対向きに移動する複数の水素原子ビームが、強力な超電導磁石に誘導され、バスほどの大きさの4か所の測定器で光速に近いスピードで正面衝突する。

 このとき目に見えない「ヒッグス粒子」の存在が確認されれば、質量の性質、重力の脆弱性、未知の次元など、物理学の大きな謎の解明につながる可能性がある。

■安全性評価の「反論」

 水素原子ビームが衝突する際のエネルギーは2匹の蚊が衝突する程度のもので、したがって生成されるブラックホールは極めて小さなもので弱々しく、発生とほぼ同時に消滅すると、安全性評価は説明する。

 また、ストレンジレットが発生するとの仮説については、米エネルギー省ブルックヘブン国立研究所(Brookhaven National Laboratory)の衝突型高エネルギー重イオン加速器のデータを引き合いに出し、「LHCでは発生しない」と述べている。

 フランス・ストラスブール(Strasbourg)の欧州人権裁判所(European Court of Human Rights)は前月29日、稼働停止を求める欧州の市民団体の訴えを退ける判決を下している。(c)AFP