【8月14日 AFP】英レディング大学(University of Reading)の研究チームは13日、おそらく世界で初めてラットの神経細胞だけで制御するロボット「ゴードン(Gordon)」を発表した。

 ゴードン製作者の1人、レディング大学のケビン・ウォーウィック(Kevin Warwick)教授はAFPに対し、この画期的な実験の目的は自然知能で記憶が蓄積される仕組みを解明することで、消滅しつつある自然知能と人工知能の境界線を調べることにより、記憶や学習能力の基本構造が解明される可能性があると明らかにした。

 また、神経細胞が電気信号を発しながら網状に結合されていく仕組みを観察することによって、脳が侵されるアルツハイマーやパーキンソンなど神経変性疾患の治療に役立つ可能性もあるという。

■人間やコンピューターの制御は一切なし

 ピクサー(Pixer)の人気アニメーション映画「WALL・E/ウォーリー」に登場するゴミ処理ロボットにも似ているゴードンは、5万から10万の活動するニューロンでできた「脳」を持っている。

 ラットの胎児から採取した生きた神経細胞は酵素溶液で1つずつほぐされ、60個の電極がついた8センチ四方の電極アレイに敷かれた栄養豊富な培地に配置される。

 このマルチ電極アレイ(multi-electrode arrayMEA)と呼ばれる装置は、生きている組織とロボットの間のインターフェースとなり、電気信号を送信してロボットの車輪を動かしたり、逆に環境に反応するセンサーからの信号を受信する。

 この「脳」は生きているため、特別に温度を管理するユニットに格納され、ブルートゥース(Bluetooth)無線リンクを介して「体」とのやりとりを行う。人間やコンピューターが制御することはない。

 ゴードンはある程度、自分自身で学習している。壁にぶつかると、ロボットのセンサーから信号を受け取り、同様の刺激をうけるたびに経験から学習していく。またMEAを差し替えれば「別人格」が現れるという。

「あるMEAを使えば荒っぽくて活発に動くが、別のMEAを使えば我々が期待していたように動かないこともある」(ウォーウィック氏)

 主に倫理的理由から、レディング大学の研究チーム、あるいは世界で同じ分野を研究する専門家も、同様の実験を行うために直ちに人間の神経細胞を使用することはなさそうだが、ウォーウィック氏は、げっ歯類と人間の知能の違いは質ではなく量的なものであり得ると考えており、ラットの脳細胞を代役としてもかなりの研究成果が得られる可能性があるという。(c) AFP/Marlowe Hood