【6月13日 AFP】より高い知能を持つ種への絶え間ない進化は、脳が徐々に大きさを増したからではなく、その「配線」が複雑化したことに起因する可能性があるという。8日の英科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス(Nature Neuroscience)」に発表された研究論文で明らかになった。

 研究を行ったのはヒトの脳の起源解明に当たっている英ウエルカムトラスト・サンガー研究所(Wellcome Trust Sanger Institute)のチームで、シナプスの役割に注目した。シナプスはタンパク質でできており、連続する生化学的な「スイッチ」を経由して電気信号、つまり情報を脳細胞間に伝えていく神経と神経のつなぎ目のことをいう。

 これまで行われてきた研究の大半では、進化のはしごの下段にいるミミズから最上段のヒトまで、基本的にすべての動物が同じシナプスを持つと推測されてきた。この一般論によると、種間の知能差は脳の質量の違いに起因しており、神経細胞が多ければ多いほど「データ処理量」も増す。

■シナプスの構造、種の間で劇的な違い

 今回の研究を主導したセス・グラント(Seth Grant)氏は、この一般論を裏付ける結果は得られなかったと説明。研究では、シナプスの濃度と分子構造を調べたところ、種間で劇的な違いがあることが分かったという。

 ほ乳類では600種類以上のシナプス・タンパク質が発見された。一方、知能の低い生命体、特に単細胞の酵母菌やミバエにどの程度見られるかを調べたところ、無脊椎(せきつい)動物ではわずかにその半分、脳を持たない単細胞動物では4分の1という驚くべき結果が得られた。

 この違いは、長期にわたるシナプスの進化の過程と一致。また、後にヒトの脳の特化をもたらしたと見られる2度の劇的な進化とも呼応する。単細胞から多細胞生物へ、さらに無脊椎動物から脊椎動物へと2度にわたって遺伝的な劇的変化が起こった際、シナプスの構造的な複雑さと情報伝達の能力が大きく増加したという。

■「シナプスはコンピューターチップのようなもの」

 動物行動学では、特定のシナプスの遺伝子は突然変異で失われたとされている。この説は、脊椎動物のシナプス・タンパク質がより複雑化したことによって脳の機能が高まったとの今回の研究結果を裏付ける。

 例えば「SAP102」と呼ばれる遺伝子は、マウスが迷路で迷わないために必要とされているが、この遺伝子がヒトに欠けると精神障害の形で現れる。

 グラント氏は「シナプスの分子の進化は、コンピューターチップの進化のようなものだ。複雑さが増せば機能が増す。動物も、高性能のチップをもっているものが最も機能が高い」と指摘。今回の発見が、ヒトの脳の正常機能を理解するうえで役立ち、病気治療につながる可能性もあると期待を寄せた。(c)AFP