【4月27日 AFP】(一部訂正)慶応義塾大学病院(Keio University Hospital)などの合同研究グループは、女性の月経で発生する経血が将来、心臓疾患の治療に大きな飛躍をもたらす可能性があるとの研究成果を発表した。

 研究グループは、9人の女性から採取した経血を1か月ほど培養し、その中に含まれる幹細胞に似た性質を持つ「間葉系細胞」に注目した。

 この細胞を実験用ラットの心筋細胞と共にラット体外の実験装置で培養すると、細胞の約20%が3日前後で拍動を初め、シート状の心筋細胞に変化したことが確認された。

 慶応義塾大学病院の心臓病先進治療講師でこの研究グループの三好俊一郎(Shunichiro Miyoshi)氏によると、人の骨髄から採取された幹細胞を使って行った同じ実験の成功率0.2-0.3%に比べ、経血を使った場合の成功率は100倍ほどに大きく上昇したという。

 心筋梗塞を起こした生きた実験用ラットの心臓にこの細胞を移植した別の実験でも、心機能の改善が見られた。

 三好氏は24日にAFPの取材に応じ、血液を「自分の治療に使うシステムが近い将来できてくると思う」と述べ、女性が疾患を患った場合に自らの経血を治療に活用する道が開けるかもしれないと指摘した。

 患者が自分自身の血液を使うことは、細胞移植で最大の問題となる免疫拒絶反応を解決する。

 経血は人の免疫システムで重要な役割を果たす白血球に含まれる抗原(human leukocyte antigensHLA)を持つ様々な種類の細胞の生成や備蓄に利用できると三好氏は語る。

 間葉系細胞は小指ほどのサイズのチューブに長期間保存ができ、必要なときに培養されることも可能という。

 三好氏は、「管理さえしっかりしてたら、小さいスペースに多量の細胞を集めることができる」と話し、たとえ100年間マッチングする患者が見つからなくても「200年、300年と、ずっと置いておける」と説明する。

 経血から採取された間葉系細胞は、厳密には、あらゆる細胞への変化が可能な幹細胞と呼ぶことはできないと三好氏は語るが、間葉系細胞は筋肉細胞にも変化する可能性を秘めていることで、将来的に筋ジストロフィーの治療などに活用される可能性があるという。

 研究は慶応義塾大学病院のほか国立成育医療センター研究所(National Institute for Child Health and Development)が合同で行い、初期成績は米専門雑誌Stem Cellのオンライン版で発表された。

 三好氏によると、経血提供者の年齢による間葉系細胞の状態の違いは見られなかったという。

 実験用ラットでは収縮する力が強くなるなど心機能の改善が見られても、三好氏は、「完全にハッピーな話ではない」と打ち明ける。

「まだこれでは、臨床で使えるものではないのではないかと思っている。確かに心臓になる因子があるはずだが、それが正確には分かっていない。しっかり(生体内で起こる変化の因子を)見つけていきたい」

 幹細胞は医学の進歩にとって大きな鍵となると見なされている。この細胞は体内であらゆる種類の細胞に変化するため、損傷を受けたり疾病を負う細胞、組織、臓器などの交換に潜在的に利用される可能性が広がる。

 幹細胞は胚から採取することができるが、胚の破壊は倫理的問題を伴う。ローマカトリック教会やジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)米大統領は胚から幹細胞を採取することに反対の立場を表明している。

 成人からは骨髄などから幹細胞が採取されるが、苦痛を伴う上人体への影響も大きい。

 近年、米国や日本の研究者は倫理的問題を回避するため、人の皮膚細胞を胚性幹細胞と同様の性質を持つ幹細胞に変える研究に力を入れている。(c)AFP/Miwa Suzuki