【12月31日 AFP】宇宙は、いや、「私たちの宇宙」は、いくつも無限に平行して存在するたくさんの宇宙の中の単なる一つに過ぎないのか?

 今月米国で封切られたフィリップ・プルマン(Philip Pullman)原作のSFファンタジー映画『ライラの冒険 黄金の羅針盤(HIS DARK MATERIALS: THE GOLDEN COMPASS)』がヒットしている。映画の舞台は「平行宇宙(パラレルワールド)」に存在する英国オックスフォード(Oxford)。われわれの世界と似ているがどこか違うパラレルワールドは、サイエンス・フィクションではおなじみのテーマだ。

 奇想天外な発想があふれるSFの中でもパラレルワールドが存在する可能性は、物理学者から数学者、天文学者たちの興味をひきつけてきた。その存在は、少なくとも今のところは証明されていないが、単なる夢想と切り捨てることもできないようだ。

 「多元的宇宙というアイデアは単なる空想の産物とは言い切れない。いくつかの科学理論に基づけば当然視できる部分もあり、検討に値するものだ」と欧州合同原子核研究機構(European Organisation for Nuclear ResearchCERN)で研究するフランスの粒子物理学者オレリアン・バロー(Aurelien Barrau)氏は説明する。

■宇宙観測から予測できるパラレルワールド

 パラレルワールドについてはいくつかの理論があり、互いに異説だったり重なる部分があるが、基本的には「宇宙が無限だと仮定すれば、理論的には、起こる可能性のあることはすべて必ず起こるか、すでに起こっている」という考えに基づいている。

 「例えば、どこか別の宇宙で太陽系の中の、わたしたちの地球のような惑星で、あなたと瓜二つの誰かが、今あなたが読んでいる文章とまったく同じ文章を読んでいるとする。この瞬間まで、その人物とあなたの人生はまったく同じだったとする。しかし次の瞬間、あなたが読書を止めて席を立っても、その人物のほうは本を読み続けるかもしれない」と米マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of TechnologyMIT)の天文学者マックス・テグマーク(Max Tegmark)氏は語る。

 テグマーク氏は、最近ケンブリッジ大学(Cambridge University)から出版したパラレルワールドについての論文で、そのような別の宇宙に存在する「もう1人のわたし」がいる可能性は、「推論的な現代物理学さえも必要としない。宇宙は無限で均一に物質によって満たされているということを示す最近の宇宙観測から単に導かれる」と結論づけた。「宇宙のどこかのもう1人のあなたの存在は、『コンコーダンスモデル』という天文学の理論からは当然予測される」

■パラレルワールドには決して追いつけない?

 多元的宇宙の存在を予測する理論はこれだけではない。各パラレルワールドは猛烈な勢いで膨張を続けているため、宇宙空間の中を互いにどんどん離れており、私たちが光速で永遠に移動し続けても決して別のパラレルワールドに行くことはできないという「カオス的インフレーション(chaotic inflation)」もその一つだ。

 直感的には理解しにくい量子論の法則を持ち出すと、さらに不思議なことになると研究者たちは説明する。

 1957年、当時プリンストン大学(Princeton University)の大学院生だった数学者のヒュー・エベレット(Hugh Everett)が画期的な論文を発表した。量子論に沿えば、従来唯一つしかないと考えられてきた現実は、実は徐々に分化しつつ平行して存在する現実だと予測することができるという内容だった。「これは単に量子論の基本方程式を厳密に理解する方法」とバロー氏。「複数の宇宙は空間的に分かれているのではなく、『パラレルワールド』とでもいうべき並行する形で存在する」

 物理学と形而上学の違いは、対象を観察できるかではなく、検証できるかにあると、テグマーク氏はいう。ブラックホール、曲がった空間、高速で移動する際の時間の遅延など、かつて科学的に異端として否定されながら、後に実験によって正しいと証明された事柄は枚挙にいとまがない。「丸くて自転する地球」もその1つだ。これらの「真理」は、観察だけでは理解できないものも多い。

 テグマーク氏は、現代物理学に依拠する多元的宇宙モデルも、徐々に実験により検証・予測が可能で反証が不可能な「真理」に近づいているのは明らかだと締めくくっている。(c)AFP/Annie Hautefeuille