【9月6日 AFP】ハイイログマ(grizzly bear、グリズリー)が自分の背中を松の木の幹にこすりつけるという習性は、一般によく知られている。従来、これは「かゆみを取るため」の行為だと考えられてきた。ところが最近の研究で、この習性が雄グマのライバルに対する威嚇行動であることが明らかになった。

 クマが「こすりつけ」を行う理由については、求愛行動のため、寄生虫を振り落とすため、あるいは虫除けのために松の樹液を体につけるためといった諸説があった。

 環境活動家として著名な英カンブリア大学(Cumbria University)オーウェン・ネビン(Owen Nevin)教授(動物保護学)が、カナダのブリティッシュコロンビア(British Columbia)州に生息するハイイログマを2年間観察した結果、松の木に体をこすりつけて臭いを残すのは雄だけだと判明。これにより自分の縄張りを示し、他の雄がやってきて「決闘」となる事態を避けているのだという。

 ネビン教授は松の木の前にデジタルカメラを設置し、幹に体をこすりつけにやって来るクマの生態観察を行った。その結果、こすりつけを行う姿が撮影されたのは、雄だけだった。さらにGPS(全地球測位システム)の発信機をクマに取り付け、追跡観測したところ、雄グマはパートナーとなる雌グマを探して谷から谷を巡り歩いては、あちらこちらの木に「マーキング」をしていることが分かった。

 雄クマ同士が遭遇して争う場合、双方が瀕死の重傷、時には殺し合いになることさえある。臭いによるマーキングは、こうした争いを避けるための知恵となっているようだ。

「自分が臭いをつけようとした木に他の雄グマの臭いがついていた場合、その雄グマは自分が他のクマの『縄張り』を侵している、つまり激しい争いが起きる可能性があると察するのだ」とネビン教授は言う。

 観察の結果、幼い子グマもマーキングを行うことが判明した。雄グマは子グマのいる母親グマとつがいになろうとする場合、その子グマを殺すことがある。こうした事態を避けるため、子グマ自身がマーキングを行い、雄グマを威嚇しているのだろうと、ネビン教授は推測している。
 
 ネビン教授は、この研究結果をイギリス生態学会(British Ecological Society)の4日付け報告書で発表。次週スコットランドのグラスゴー大学(University of Glasgow)で開かれる同学会の年次大会で、研究報告を行う予定。(c)AFP