【9月14日 AFP】米国で中間選挙が行われた2010年11月2日、インターネット交流サイト(SNS)最大手フェイスブック(Facebook)で1つのメッセージが約30万人の投票を促した――米大の研究チームがSNSユーザーを対象に行った過去最大規模の実験結果が12日、明らかになった。チームは、サイバー空間での友人のひと押しが、現実の世界を動かすことが証明されたと語っている。

 この大規模実験で、まず研究チームは米国内のフェイスブックユーザーを3つのグループに分けた。そして2年前の11月2日、フェイスブックにログインした第1グループのユーザー6000万人のニュースフィードトップには、「今日は中間選挙の日です」というメッセージと、クリック可能な「投票しました(I Voted)」ボタン、近隣地域の投票所を示したリンク、「投票しました」ボタンをクリックしたフェイスブックのユーザー数がアップデートされるカウンターが表示された。さらに、これらに加えて、「投票しました」ボタンをクリックした「友達」最大6人までの写真も表示されるようにした。

 第2のグループとされた60万人には、第1グループのメッセージから「友達」の写真のみが除かれたものを表示した。一方、対照群とされた第3グループ60万人は、中間選挙メッセージも写真も一切表示されない仕組みにした。

 その後研究チームは、ユーザーの身元や投票した候補は分からない形で、投票所での公式記録を追った。すると、中間選挙メッセージだけを受け取った第2グループと、何も受け取らなかった第3グループの間には投票率に違いは見られなかったが、メッセージとともに「友達」の写真も受け取った第1グループでは、他のグループよりも投票率が0.39%高かった。

 これは、「ソーシャル(社会的)メッセージ」を受け取ったことで投票に行った人が約6万人増えた計算になり、全米規模に換算すれば約34万人に相当するという。

 実験を率いた米カリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California at San Diego)政治学部のジェームズ・ファウラー(James Fowler)教授は、友達が投票したと聞いて自分も後に続くという行動を「社会的感染」の一例とし、「政治動員では社会的影響が大きくものをいう」と指摘。投票行動に影響を与えたのは「『私は投票しました』というクリックボタンや、投票を呼び掛けるステッカーなどではなく、個人対個人の関係だ」と語った。

■バーチャル世界が実世界にも影響

 今回の実験結果で、いかにしてバーチャル世界が実世界に影響を及ぼすかということが示された。だが、選挙戦ではこれが際どい結果を生むことにもなりかねない。

 2000年の米大統領選挙では、フロリダ(Florida)州の結果が全体の行方を左右する展開となり、最終的に共和党のジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)氏が民主党のアル・ゴア(Al Gore)氏を破って大統領に就任した。だが、この時のフロリダにおける両候補の得票差は、投票率の0.01%をも下回るわずか537票だった。

 米ニューヨーク大(New York University)のシナン・アラル(Sinan Aral)氏は英科学誌ネイチャー(Nature)に寄せた論評で、今回の実験を「感染式マーケティング」の有効性を実証する事例証拠だと評した。その上で、アラル氏は「しかし、こういった干渉にはプラスの社会的変化を促進する可能性もある」と指摘し、その例として、HIV検査の検査率の上昇、暴力の抑制、運動習慣の向上、政治的意識の向上や動員などを挙げている。(c)AFP