【6月4日 AFP】中国・湖北(Hubei)省で5月に「地元当局の役人に強姦されそうになり、抵抗してその役人を殺害した」女性が前週、釈放されたが、同国のインターネットユーザーたちはこれを当局の検閲制度に対するネットパワーの勝利と受け止めている。

 5月10日、同省巴東(Baodong)市のサウナホテルで、従業員の鄧玉嬌(Deng Yujiao)さん(22)が勤務中、客として訪れた地元当局の職員をキッチンナイフで刺して死亡させた。その後、Dengさんは警察に出頭し、役人から性的暴行を受けそうになり抵抗したと申し立てたが、その場で中国では死刑が適用される殺人罪で逮捕された。

 このニュースが報じられるとネット上のチャットルームやブログで、鄧さんを擁護する意見が沸騰。「高い地位ゆえに欲しいものは何でも手に入ると考える腐敗した当局幹部に、勇気を持って反撃した」と、鄧さんをヒロインとして称えるコメントが席巻した。

 鄧さんは「抵抗する際、繰り返し殴られて」負傷したため入院措置がとられたが、有名ブロガーのTu Fu氏は、事件に関する記事を書いた後、鄧さんが入院している病院を訪れ、励ました。この事件は徐々に、共産党政権によって厳重に管理されている中国社会における不正の象徴となり、鄧さんの支援グループが出現、弁護士らも動き始めた。

 国営通信は、「鄧さんの自己防衛は行き過ぎ」とする警察の見解を伝えたが、鄧さんは前週、突然釈放され、軟禁状態ながらも母親の家へ戻ることが許された。

 一方、死亡した役人と一緒にホテルを訪れ、暴行に加担したとみられる役人2人は免職された。

■天安門事件20周年を前に

 一連の出来事は従来のメディアに比べ、中国当局の監視があまり行き届いていないインターネットの力が強大になりつつあることを改めて印象づけた。

 だが、言論の自由に対する弾圧の象徴である1989年の天安門事件から、4日に20周年を迎える中国政府は神経をとがらせている。

  前出の有名ブロガー、Tu Fu氏のサイトはアクセス不可能になった。鄧さんの事件を報じた国内メディアは、当局からの警告で事件の続報を避けているようだ。鄧さんの支援者のひとりは「6月4日を前にして、事件をきっかけに火がついたネット上のコミュニティから、騒乱などが起きるのを当局は懸念しているのだろう」と言う。

 また、報道の自由のために活動するNGO「国境なき記者団(Reporters Without BordersRSF)」は2日、ツイッター(Twitter)やユーチューブ(YouTube)、フリッカー(Flickr)、新検索エンジン「Bing(ビーイング)」、ウェブサービス「Opera」「Live」などへのアクセスが遮断されていると報告した。

 しかし「われわれネットユーザーは今後も事件を追い、地元当局が次にどう出るかも注意深く見守っていく」と前述の支援者は宣言した。

 中国社会問題の専門家で、北京理工大学(Beijing Institute of Technology)教授の胡星斗(Hu Xingdou)氏によると、中国のインターネット使用人口は現在約3億人。「従来のメディアは政府の代弁者。一方でインターネットは人々のために語る。ユーザーは解放され、自分を表現したり正義のために声をあげる場となっている」(胡氏)。(c)AFP/Francois Bougon