【3月29日 AFP】オーストラリア主導の研究チームがこのほど、南極海(Southern Ocean)に生息するシロナガスクジラの「歌声」を音響技術を使って追跡し、居場所を突き止めることに世界で初めて成功した。トニー・バーク(Tony Burke)豪環境相が28日、発表した。

 世界最大の哺乳類であるシロナガスクジラの姿は、南極海ではまれにしか目撃できない。だが研究チームはこの難題に果敢に挑戦し、シロナガスクジラの特徴ある深い鳴き声から居場所を特定して、衛星追跡用のタグを取り付けることに成功した。

 研究者のバージニア・アンドルーズゴフ(Virginia Andrews-Goff)氏がAFPの取材に語ったところによると、音響技術を用いたクジラの居場所特定例は世界初。この技術によって、クジラが発する鳴き声を常時検知しながら瞬時にクジラの居場所を特定することが可能になったという。

 同氏は、シロナガスクジラの鳴き声について「まるで宇宙人のように深く反響する音」で、「情熱的で聴いていてとても面白い」と話している。

■謎に包まれた生態、解明なるか

「南極海シロナガスクジラ・プロジェクト(Antarctic Blue Whale Project)」では、南極沖ロス海(Ross Sea)西域に数百キロ遠方の音まで検知できる音響探知ブイを設置。626時間にわたってシロナガスクジラの鳴き声を収集し、リアルタイムで2万6545件の鳴き声を録音・分析した。

 チームはこの情報を基に三角測量でクジラの現在位置を割り出し、その場所へ船で向かってクジラを確認したと、音響技術を専門とするブライアン・ミラー(Brian Miller)氏は説明している。

 チームはまた、シロナガスクジラ23頭の生検標本を採取し、うち2頭に衛星追跡用のタグを取り付けることに成功した。これにより、これまで不明だった夏季におけるシロナガスクジラの生態や捕食行動に関するデータの収集が期待できる。

 アンドルーズゴフ氏によれば、南極海のシロナガスクジラついては移動パターンや、そもそも移動しているのか否かといった生態のほとんどが分かっていない。衛星タグを取り付けたことで、推測しかできなかったシロナガスクジラの現在位置や、その行動が海氷縁の変化といった環境要因の影響を受けているかを実際に確認することが可能になったという。

 これまでのところプロジェクトの成果は上々で、この手法が世界のクジラ生態研究における青写真となるだろうとアンドルーズゴフ氏は予測している。

■舌だけでもゾウより重いシロナガスクジラ

 バーク環境相によると、シロナガスクジラは大きいものでは体長30メートル以上、体重180トンにもなり、その舌だけでもゾウ1頭よりも重量がある。心臓は小型車と同じくらいの大きさで、史上最大の恐竜もシロナガスクジラよりは小さいという。

 極寒の南極海での7週間にわたる調査中、調査チームはしばしば、このシロナガスクジラの巨体に全長6メートルのボートで接近を試みたという。「まるで自分たちがアリになったように感じた。シロナガスクジラは本当に巨大だった」と、アンドルーズゴフ氏は振り返っている。(c)AFP/Madeleine Coorey