【3月31日 AFP】「この冬買った中で、一番の買い物だよ」と、公務員を退職したサルダル・アザムさんが見せてくれたのは太陽熱温水器だ。パキスタン領カシミール(Kashmir)の川沿いにある自宅のベランダに設置した。「一番大きな点は、一度お金を払えば、あとは太陽光で無料で動くところ」だと自慢する。

 パキスタン電力会社(Pakistan Electric Power Company)によると、同国では1日1万6000メガワットを発電する必要があるが、まかなえているのは1万3000メガワットだけ。電力不足のため数百万人が最大16時間にも及ぶ停電の憂き目に遭っている。

 電力不足は、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)や隣国アフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)との戦いに次ぐ有権者の関心事だ。政府も1年以内に実施される総選挙を視野に入れ、この電力供給の改善を口にすることが増えている。

 ヒナ・ラッバーニ・カル(Hina Rabbani Khar)外相は今月「パキスタンのエネルギー危機の実情を、わが国の友人たちに理解してもらいたい。どこからエネルギー供給を受けるか、えり好みしている余裕などわが国にはないのだ」と語った。同外相はこの時、米国による制裁を受ける可能性があったとしても、イランからガスを輸入するパイプラインを建造するという政府の決定について言及した。エネルギー危機の最前線においては、つかめる藁(わら)ならば何でもつかむという、明確なメッセージだった。

「代替エネルギー開発委員会(Alternative Energy Development Board)」のアリフ・アラウディン(Arif Allaudin)委員長は、こうした不足分を埋めるエネルギー源として再生可能エネルギーに期待をかける。太陽エネルギーによって、パキスタン国内だけで240万メガワットを発電できる可能性があるという。

 民間の代替エネルギー会社「オルタネート・エネルギー・システムズ(Alternate Energy Systems)」のニアズ・アフメド・カティア(Niaz Ahmed Kathia)取締役は、無料で豊富に手に入る太陽光こそパキスタンのエネルギー不足解消の答えだと語る。例えば、同国にある約100万か所の地下水汲み上げ井戸は、国営電力会社の電気かディーゼル発電で稼動されているが、これを太陽エネルギーに切り替えれば7000メガワットの節電になるという。

 今月、首相は政府に、国営電力が届いていないへき地の村などに太陽光による電気を供給するよう命じた。政府は再生可能エネルギーは「投資するべき選択肢」だと推奨している。民間セクターから1日1500メガワットの発電の申し出もあった。

 冒頭のアザムさんが住むカシミール地方の中心都市ムザファラバード(Muzaffarabad)では現在、ソーラーパネルで発電した電気が公園やモスクを照らし始めた。ラワルピンディ(Rawalpindi)やラホール(Lahore)、カラチ(Karachi)などの都市でも徐々に、太陽電気による街灯が導入されている。

 同国で初めて商用電力網に接続した(オングリッド)太陽光発電所は、日本の国際協力機構(Japan International Cooperation AgencyJICA)が540万ドル(約4億4800万円)を出資し今月、首都イスラマバード(Islamabad)でテスト操業を開始した。178.9キロワットの発電能力がある。ある上院議員は「これから何千とできるであろう太陽光発電所の種だ」と期待を寄せる。(c)AFP/Masroor Gilani