【3月7日 AFP】南極を訪れる観光客や科学者が意図せず持ち込む外来種が、南極の生態系を脅かす可能性があるという調査結果が米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)に発表された。

 今回の調査は、外来種が南極に及ぼす恐れのある影響を定量的に調べた初の試み。論文は、外来種を「南極での気候変動が進む中、南極の生態系にとって最大の脅威の1つ」だとしている。

 調査の結果、南極を訪れた人は1人平均9.5個の外来植物の種子を南極に持ち込んでいることが分かった。また、年間3万3000人の一般の観光客よりも、7000人と推定される南極で活動する研究者の方が外来植物の種子や珠芽(しゅが)を多く持ち込む傾向が見られたという。

 研究に参加したフランス人研究者、マーク・ルブービエ(Marc LeBouvier)氏はAFPに対し、生態系が脅かされる可能性があるのは、南極の陸地で氷に覆われていない部分の1%~2%にすぎないとしながら、「外来種は地球規模の問題だが、生態系が崩れやすい島々ではとりわけ影響が大きい」述べた。

■訪問者の衣服などから外来植物の種子

 同調査によると、生態への影響が最も危険視される地域は、南極半島(Antarctic Peninsula)の沿岸部のロス海(Ross Sea)に近い氷に覆われていない地域と、東南極(East Antarctica)だという。

 現在南極で定着しつつある外来植物には、スズメノカタビラ(Poa annua)や種子が風散布する南米原産の維管束植物2種、外来生物にはトビムシ目の昆虫2種などがあるという。

 今回の実態調査は、南アフリカのステレンボッシュ大学(Stellenbosch University)の生態学者スティーブン・チョウナ(Steven Chowna)氏が率いる国際研究チームが、国際極年2007-2008(International Polar Year 2007-2008)の最初の夏季に行った。チョウナ氏らは、船舶や航空機で南極を訪れた5600人を対象に出発地や南極到着前の経由地をアンケート調査した。

 その後訪問者のカバン、ポーチ、スーツケース、衣服、靴など853点を調べた結果、種子や珠芽などが2600個以上も見つかった。

 このうち約43%が種のレベルまで同定された。研究者らによると「気象条件が南極と似ている亜南極や北極圏に由来する既知の外来種」もあったという。

 調査の対象となった訪問者のうち、半数以上は南極訪問前の1年間に寒冷地域を旅行しており、南極の寒い環境でも生育できる種を持ち込んでいた可能性があることが分かった。
 
 今回の研究には、英南極調査所(British Antarctic SurveyBAS)、日本学術振興会(Japan Society for the Promotion of Science)、オランダ生態学研究所(Netherlands Institute of Ecology)、フランス極地研究所(French Polar Institute)も参加した。(c)AFP/Jean-Louis Santini