【3月2日 AFP】海洋の酸性化が高濃度の汚染によって過去3億年来で最も早いペースで進んでいることが、1日の米科学誌サイエンス(Science)に発表された英米など5か国の共同研究で指摘された。地球上で生物の大量絶滅は過去4回起こっているが、海洋の酸化は現在が最もひどい可能性があり、海の生命体の将来が懸念される。

■ 5600万年前の大気候変動時と類似

 米国、英国、スペイン、ドイツ、オランダの研究者から成る国際研究チームは、太古の海底堆積物に含まれていた化石に関する研究など、これまでに発表された古海洋学研究、数百件あまりを調査した。

 過去の海洋酸化は、小惑星が地球に衝突し二酸化炭素が発生した際や、火山爆発で地球全体の気温が上昇した時などに起きていた。

 だが、海洋生物の固体数激減という観点から現在と同程度の状態が見られたのは、大気候変動が起きた約5600万年前の「暁新世(ぎょうしんせい)始新世(ししんせい)境界温暖化極大期(Paleocene-Eocene Thermal MaximumPETM)」と呼ばれる時期だけだったことが明らかになった。この時期に二酸化炭素が増加した原因については諸説あるが、科学者の間では二酸化炭素の放出が倍増した結果、地球上の気温が約6度上昇し、海洋生物が大量に死滅したと考えられている。

■ 産業活動のCO2が海洋酸化に拍車

 海洋が特に気候変動の影響を受けやすいのは、空気中の余分な二酸化炭素を吸収することで酸化するためだ。海水が酸化するとサンゴや軟体動物、貝類など礁に住む生物が死んでしまう。

 論文の主著者で米コロンビア大学(Columbia University')ラモントドハティ地球観測研究所(Lamont-Doherty Earth Observatory)の古海洋学者バーベル・ホーニッシュ(Barbel Honisch)氏はこう警告する。「過去に海洋酸化が起こった際に、すべての生物が絶滅したわけではないことは、知られている通りだ。その後も新たな種が進化して、死に絶えた種に置き換わってきた。しかし、産業活動による二酸化炭素排出が現在のペースで続けば、絶滅が懸念されているサンゴ礁やカキ、サケなどの生物を、われわれは失うことになるだろう」。

 研究チームによれば、海洋酸化が進行する速さは現在、5600万年前の10倍以上で、少なくとも過去3億年で最も早いペースだという。共著者の英ブリストル大学(University of Bristol)アンディ・リッジウェル(Andy Ridgwell)氏は「海洋生態系の変化に関して、われわれは未知の領域に踏み込みつつある」と語る。

 国連環境計画(UN Environment ProgramUNEP)の2010年の報告書によれば、海洋の酸性度が上昇すると、例えば食物連鎖の1次消費者(植食性動物)である翼足類から、カニ類や魚類、サンゴ類などカルシウムを主体とする生命形態が打撃を受ける。 同報告書は、人類の活動による二酸化炭素排出に促された海洋の酸性化の進行は非常に危険な段階にあり、防止対策が必要だと指摘している。(c)AFP