【8月24日 AFP】ロシアにある欧州最大の種子保存施設が、住宅建設計画のため取り壊しの危機に瀕している。

 この施設はサンクトペテルブルク(St. Petersburg)郊外にあるパブロフスク試験地(Pavlovsk Station)で、90年の歴史をもつ。500ヘクタールの敷地で穀物や果実1万2000種の種を保存管理している欧州最大規模の種子銀行だ。

 だが、先ごろ、連邦政府系の住宅関連機構に土地を引き渡すよう裁判所から命じられ、数か月以内に取り壊される見通しとなった。

 長年、パブロフスク試験地に勤務する植物学者のアレクサンドラ・コンドリコバ(Alexandra Kondrikova)氏は、栽培畑を前に「これだけの多くの植物を移植するには何年もかかる。せっかく収集した植物たちにとっても致命的だ」と途方にくれる。だが、土地の一部は9月にも売却が始まる。

「20世紀を通じて収集された価値ある種子コレクションを、政府はどうでもいいと思っている。このうち90種類は固有種だというのに」と、同試験地のフョードル・ミホビッチ(Fyodor Mikhovich)氏も嘆く。

 連邦政府側にとっては、敷地の売却見込み額10億ルーブル(約28億円)が取り壊しの大きな動機となっているほか、試験地にとっては法の壁も立ちはだかる。ロシアの法律は、未利用地は譲渡の対象としてよいと定めているからだ。政府は「草以外に何もない」試験地を「未利用地」とみなしているが、「ココナツでも植えればいいと言うのか?」と、ミホビッチ氏は納得がいかない。

 開発業者には「価値換算が不可能」とされた土地の開発権も認められている。「この土地が使用地であると法的に証明するためには、唯一無二の種子たちに金額をつけなければならない。しかしそんなことは不可能だ」とミホビッチ氏は肩を落とす。

 敷地を外から眺めれば、1万2000種もの果実木や穀類を有する試験地の広大な土地も、ただ木立や草むら、茂みが広がるだけに見える。近くに立つサンクトペテルブルクの富裕層の別荘が織り成す景観とは対照的だ。

 試験地の危機に、世界作物多様財団(Global Crop Diversity TrustGCDT)も声をあげた。ロシア政府に開発計画の中止を迫り、すでに政府からも反応を得ている。またメドベージェフ大統領も、ある自治体議会の訴えを受け、最近始めたツイッター(Twitter)上で「計画の詳細な検討」を命じたと記した。しかし、実際に命令が遂行されるか否かは、予断を許さない状況だ。

 パブロフスク試験地は、1920年代に科学者ニコライ・バビロフ(Nikolai Vavilo)によって設立された。第2次世界大戦中、レニングラードがナチス・ドイツ軍に包囲された際、同試験地の植物学者たちは貴重な種子を食べて生き延びるよりも、飢えて死ぬことを選んだという。

「この試験地は値千金だ」と話す近隣住民も、「私腹を肥やすことしか関心のないお役人を相手に、植物学者たちに勝ち目があるかどうか」と不安を隠せない。

 その一方で、ロシアは今夏、記録的な干ばつに見舞われ、穀物生産量の4分の1が被害を受けた。これにより、種子銀行の重要性が再認識される事態となっている。(c)AFP/Marina Koreneva