【3月24日 AFP】下水はクリーンエネルギーの鍵となりうるか?ノルウェーの首都オスロ(Oslo)で2010年以降、人間のし尿から抽出したバイオ燃料を市バスで利用する計画が進んでいる。

「カーボンニュートラルな燃料だから、環境を汚染しにくい。騒音も少ないし、永遠に再生可能だ。(し尿処理の面でも環境保護の面でも)互いにメリットがある」と同プロジェクトに関わる市民の1人、オーレ・ヤコブ・ヨハンセン(Ole Jakob Johansen)さんは語る。

 市バスが使用する予定のバイオ燃料は、し尿から作られるメタンで、Bekkelaget下水処理場に集まるオスロ市の人口25万人のし尿が原料となる。「トイレに行くことで、年間8リットルのディーゼル燃料に等しい燃料を1人当たりが生み出す計算。1人分だけを見るとわずかかもしれないが、25万人分が集まれば、バス80台が10万キロずつ走れる分を十分にカバーする」とヨハンセンさんは言う。しかも、ディーゼルに比べバイオメタンは(カーボンニュートラルなため)ずっと環境に優しい。

 さらにディーゼル燃料と比較して、呼吸器疾患の原因となる2つの物質である窒素酸化物と微粒子の排出はそれぞれ78%、98%も削減される。バスの騒音も92%抑制される。

 コストについては捉え方が対立している。

 ノルウェーのガソリンスタンドでのディーゼル燃料の販売価格は現在1ユーロ(約133円)を超えているが、ヨハンセン氏によると、ディーゼル燃料1リットルに相当するバイオ燃料の生産は、全過程で通常0.72ユーロ(約96円)のコストですむ。

 しかし、オスロ市の公共交通機関を運行するRuterのアン・メレーテ・アンデルセン(Anne-Merete Andersen)氏は「燃料自体は安いが、新バスの車両価格とその維持費は今よりも高くなる。全体ではコストは15%増える」と言う。

 一方で、穀物などの植物から精製される第1世代のバイオエタノールとは異なり、し尿によるバイオメタンは食料価格の高騰を招かない、肥料が要らない、貴重な水資源を枯渇させることがないといった利点もある。

 オスロで2番目に大きい下水処理施設にもこの計画が及び、食料ごみから作られるバイオ燃料の分を補完することになれば、オスロ市内を走る350~400台のバス全部の燃料供給がカバーできる。Ruterでは「運行バスすべての燃料をバイオメタンに切り替えれば、二酸化炭素排出量は年間3万トン削減されるだろう」と発表している。

 バイオ燃料バスはすでに、フランスのリール(Lille)やスウェーデンの首都ストックホルム(Stockholm)など複数の都市でそれぞれ約70台が運行されている。「導入初期にまつわる課題はあるが、そうした問題は解決しつつあり、十分役立つ燃料を手にしていると思う」と、大ストックホルム圏交通局(SL)のバイオ燃料専門家、サラ・アンダーソン(Sara Anderson)氏はAFPの取材に答えた。

 最後に、新しいバイオ燃料についてそれでも疑い深い人たちに向けて、ヨハンセン氏は「臭いは絶対にない」と断言した。(c)AFP/Pierre-Henry Deshayes