【1月13日 AFP】オーストラリアと南極の間に横たわる世界遺産、マッコーリー島(Macquarie Island)への侵入生物種の根絶を目指した試みが、逆に環境の激変を招いている。13日、英生態学会(British Ecological Society)の発行する「ジャーナル・オブ・アプライド・エコロジー(Journal of Applied Ecology)」誌に研究論文が発表された。

 同島の侵入生物種の根絶計画とそれがもたらす結果に関する研究を、オーストラリア環境・遺産省南極部(Australian Antarctic Division)がまとめたもので、複雑に張り巡らされた生態系に不用意に手を加えると何が起きうるかについて教訓を示している。
 
 事の起こりは19世紀初頭、同島に複数のネコが捨てられ、急速に野生化していった。1878年には、アザラシ狩猟者たちが同島にウサギを持ち込んだ。

 ウサギはその後、植生を破壊するほど増え続けたため、豪政府は1960年代後半、粘液腫ウイルスによる個体数調整に乗り出した。その結果、ウサギはピーク時(1978年)の13万羽から1980年代には2万羽に激減した。

 これでマッコーリー島の植生は回復したものの、作戦は負の結果ももたらした。それまでウサギを餌としていたネコたちが、ウサギの激減に伴い、マッコーリー固有種の鳥を襲い始めたのだ。

 鳥の絶滅を恐れた当局は1985年、ネコの根絶計画に着手。2000年までにネコは1匹残らず駆除されたものの、今度は粘液腫ウイルスの影響を受けないウサギが、天敵がいなくなったことで再び増殖を始め、5年もたたぬうちに植生に多大なダメージを与えてしまった。中には草がまったくなくなり、土がむきだしになってしまった地域もあった。

 これは生態学でいう「栄養カスケード」の一例だ。ある種の個体数が急激に減少または増加すると、それがもたらす影響が食物連鎖全体に及ぶという現象だ。

 論文の主執筆者である豪南極部のダナ・バーグストーム(Dana Bergstrom)氏は「2000年から07年の間に広範囲の生態系が破壊され、数十年かけた環境保全の努力が無に帰してしまった」と嘆く。また「(生態系への)介入は大局的な視点を持って行われるべきで、間接的な影響も含めたリスク評価が不可欠。これを誤れば、莫大な経費がかかることになる」と、世界の環境行政に注意を促している。 

 実際、マッコーリー島の問題を解決するためには、約2400万オーストラリアドル(約14億円)の超過経費がかかると見込まれている。(c)AFP