【10月21日 AFP】欧州連合(EU)加盟国の環境相らは20日、ルクセンブルクの欧州理事会(European Council)本部での会議で、温暖化ガス削減目標の維持を再確認したが、世界経済が金融危機で揺らぐ中、産業保護を求める各国政府方針とのはざまで葛藤(かっとう)が生まれつつある。

 EUは前年、温室効果ガス排出レベルを2020年までに1990年水準から20%削減し、エネルギー源の最大20%を再生可能エネルギーにする目標を定めた。この達成のためにEU圏内の重工業部門には、2005年水準から21%の二酸化炭素排出量の削減が求められ、輸送、農業などほかの産業部門にも達成目標が設定された。

■金融危機で強まる産業保護の動き
 
 しかし、イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ(Silvio Berlusconi)首相は前週、この削減目標を拒否する可能性も示唆し、EUの気候変動対策包括案の大幅修正と検討制度の発足を求めた。同首相はそうした用意があるのはイタリアだけではないともけん制した。

 これに対し、フランスのジャンルイ・ボルロー(Jean-Louis Borloo)環境・持続的開発・エネルギー・運輸相は20日の会議によって、目標の維持が確認されたと強調した。

 12月にポーランド西部のポズナニ(Poznan)で行われる気候変動枠組み条約第14回締約国会議(COP14)での「合意に向け、協力を強化したいというEU加盟国の強い意欲は明確だ。金融危機によって温暖化が止まるわけではない」と述べたボルロー氏はこの後、AFPの取材に対し、20日の会議でCOP14に向けた「強固な交渉姿勢」を築けたと語った。

 COP議長は17日、COP14までにEU内での合意が成立しなかった場合、EUの包括案全体にとって危険な兆候だと懸念を表明。欧州委員会(European Commission)のスタブロス・ディマス(Stavros Dimas)委員(環境担当)も、いかなる後退にも反対する構えを示した。

■自国産業を擁護したい大国と、貧困脱却したい旧共産圏

 しかし前週、包括案に検討制度を求めるなど対抗したのがイタリアとポーランドだ。背景には金融危機による打撃のほか、EU内で比較的貧しいポーランドでは、エネルギー源として石炭に依存している事情がある。

 旧ソ連のバルト3国のほか、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアなどの旧共産圏国がこぞってポーランドと同様に反対を唱える一方、自国の自動車産業を擁護したいドイツにも厳しい姿勢が見られた。
 
 最終的にイタリアとポーランドは、12月中旬に行われる次回EU首脳会議で、多数決ではなく全会一致の場合のみ包括案を採決するという案でほかの加盟国を説得したが、これによりEUの気候変動対策の達成には大きな脅威が突きつけられた。
 
 前年EUの輪番議長国に就任した際に大々的な削減目標を掲げたドイツのアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相でさえ、前週のEU首脳会議では「合意にいたる前にEUにはやるべき仕事が山とある」ことを認めた。

 ジグマル・ガブリエル(Sigmar Gabriel)ドイツ環境相は「金融危機は単なる言い訳にしか聞こえない」と嘆きをもらした。(c)AFP/Christian Spillmann