【3月19日 AFP】地球上に淡水が存在しなければ人間も生存できない。しかし現在、人類の生命維持にとって最も基本的なものといえる淡水を世界の5人に1人が日常的に入手することができていない。

 22日の「世界水の日(World Water Day)」を前に国連(UN)は、世界人口が増え続ける中、2025年には地球上の3分の1の人々が安全な飲料水を必死に捜し求める状態になりかねないと警告した。

■水の枯渇につながる経済成長、人口増加、巨大都市

 現在、世界で毎年200万人以上が非衛生的な水を原因とする疾病によって亡くなっているが、その大半は子どもたちだ。この悲劇には互いに絡み合った多くの要因がある。世界的な経済成長、人口圧力、巨大都市の出現などはすべて水の使用を驚異的な量に押し上げている。

 例えばメキシコ市(Mexico City)やジャカルタ(Jakarta)、バンコク(Bangkok)には地下水源があまりない上に利用不可能なものも多く、水源の枯渇は警戒が必要な速度で進んでいる。1600万人が住む北京(Beijing)では帯水層が最近30年間で10メートル以上も下がり、政府は何百億ドルも投資して南部の長江(揚子江、Yangtze River)から渇水気味の北部への引水事業を余儀なくされた。

 水不足に加え、病原菌を含む非衛生的な水や化学物質による水質汚染などで、発展途上地域の主要な水源は疾患を招く有害な貯水池となってしまい、状況をさらに悪化させている。他に選択肢のない絶望的な状況で、そうした汚染水を使わざるをえない人は多い。

「今後数十年で清潔な水を供給する新たな方法が見つからなければ、水の枯渇は大量移民から戦争までさまざまな行動を引き起こす合言葉になりかねない」と、ある研究者チームは警告する。このチームは浄水技術の再検討を行っているグループで、20日の英科学誌「ネイチャー(Nature)」に研究結果を発表する。

■地球温暖化が追いうちかける

 しかし、科学者や各国政府が世界の「水に対する飢え」を満たそうと苦闘する中、もうひとつ背後から迫る脅威がある。地球温暖化だ。
 
 国連の「気候変動に関する政府間パネル」(Intergovernmental Panel on Climate ChangeIPCC)によれば、海面の上昇によってすでに、数千万の人口が集中するアジアの低地沿岸域メガデルタの下の帯水層にまで塩水が入り込むようになっている。また気候パターンの変動がアフリカから欧州南部、アジアなどに及ぶ広い一帯の干ばつを深刻化させようとしている。

 専門家や各国政府は特に世界の最貧地域における清潔な飲料水の不足を緩和するために、大きなカテゴリーにわたる3つのイニシアチブを提起している。「公衆衛生、浄水、水管理」だ。

 各国政府が公衆衛生のインフラを強化する一方で、科学者たちが入手できる水を飲料用に浄化する新技術を開発すると、米政府資金による研究機関「Center of Advanced Materials for the Purification of Water with Systems(浄水システムのための先端物質センター)」の所長であるマーク・シャノン(Mark Shannon)米イリノイ大学(University of Illinois)教授はAFPのインタビューに構想を語った。「新しい給水方法では、逆浸透を利用した脱塩処理がすでに最大の成長分野になっている」という。

■開発急がれる新しい給水技術

 逆浸透圧を使った新技術では、ナノメートルサイズの微細孔の開いたフィルターを使い、塩やそのほかの不純物を水から除去するが、工業規模の利用に初めて道が開ける可能性があるという。

 またマイクロフィルターは水中に蓄積してしまう農薬やヒ素、重金属、硝酸塩、医薬品の派生物などの除去にも用いられているという。しかし現在の浄化手法ではまだ「難しい上に効果で信頼性が低く」、完全なものにするまでにはあと数年を費やすだろうとシャノン教授は言う。

 第3の浄水技術は特に貧困国に最も関連するものだが、消毒を通じたバクテリアやウイルス、そのほかの病原体の除去や殺菌だ。「安全な飲み水という観点で、病原体は今日でも世界で最も深刻な問題だ」とシャノン氏はいう。

 また、2030年までに世界の食糧生産量は50%増えることが見込まれているため、水の消費量が少なく厳しい条件下でも耐えられる遺伝子組み換え穀物も開発されている。例えば米国の研究者たちは、穀物の三大弱点である干ばつ、塩分、低温に極度に強い遺伝子組み換え米をつい先ごろ開発したところだという。(c)AFP/Marlowe Hood