【11月27日 AFP】ハーベイ・ミルク(Harvey Milk)は全米で初めてゲイであることを明らかにして公職選に当選した。同性愛者の権利を求める運動の先駆者であり、その運動の殉教者の1人ともなった。

 27日は、ミルクが射殺されてちょうど30年目。4日に米カリフォルニア(California)州の住民投票で同性婚禁止を求める住民提案が可決され衝撃を受けたサンフランシスコ(San Francisco)市の同性愛者社会は、この日を悲しみを持って迎えた。

 前日の26日には、俳優ショーン・ペン(Sean Penn)がミルクを演じる映画『Milk』が、ミルクが活動したサンフランシスコを含む複数の都市で公開された。

■ゲイを公言した米国初の市会議員

 ミルクは1977年にサンフランシスコ市の市会議員に当選。ジョージ・マスコーニ(George Moscone)市長とともに市政に携わるが、1978年11月27日に市長とともに殺された。犯人は元同僚議員のダン・ホワイト(Dan White)。ホワイトは殺害の数時間後、警察に出頭した。ミルクとホワイトはどちらもベトナム戦争の帰還兵で、その後は警官や消防士として働いていた。しかし市会議員員になると2人は反発しあうようになったという。

「同性愛者の権利を求める運動を率いたミルクは、同性愛者の政治参加を訴え、認知と尊敬を求めた」と語るのは、同性愛者でカリフォルニア州議会議員、そしてミルクと同様サンフランシスコの元市会議員でもあるCarole Migden氏。「ミルクの当選は大きな一歩だった。同性愛者も政治に参加できる、一生懸命努力すればできるのだということを示した」と語る。

 ミルクが市会議員になった1977年は、同性愛者に対する差別が非常に激しい時期だった。フロリダ(Florida)州では、歌手のアニタ・ブライアント(Anita Bryant)が先頭に立って運動を展開し、同性愛者差別を禁止する法律を廃止した。カリフォルニア州でも同性愛者及び同性愛者の権利を支持する教師を公立学校から排除する法案が議会に提出されると、ミルクが反対運動を先導した。

■同性愛者社会に今なお残る「ハーベイの遺産」

 タイムズ(Times)誌が選ぶ20世紀の100人にも選ばれたミルクの精神は、サンフランシスコの同性愛者社会の中心地として知られるカストロ・ストリート(Castro Street)に今も生き続けている。通りにあるリーバイス(Levis)の店舗のショーウィンドーには「Thenks Harvey!(ありがとう、ハーベイ!)」と書かれ、ゲイのシンボルである虹色の旗が掲げられたハーベイ・ミルク広場はこの地区の中心地となっている。映画『Milk』のサンフランシスコでのオープニング上映は、広場のすぐ近くにあるカストロシアターで行われた。

『ブロークバック・マウンテン(Brokeback Mountain)』の制作会社が手掛けた同作品は好評で、主演のペンはすでにオスカー賞の呼び声も高い。ホワイトを演じるのは『W.』でジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)米大統領を演じたジョシュ・ブローリン(Josh Brolin)だ。公立学校から同性愛者の教師を排除しようとする法案にミルクが反対運動を行ったとき、教師として一緒に反対運動に加わった、現カリフォルニア州議会議員のトム・アミアノ(Tom Ammiano)氏も、本人役で出演している。

「ミルクは同性愛者であることを公言し、それに対し弁明もしなかったことで、勇気と希望を与えてくれた」とアミアノ議員は語る。「ミルクは自ら積極的に主流と言われるものに関わり勇気を示した。そして(同性愛者に関する)状況がやがては変わると言っていた。この映画を通して、そのことが分かるのは喜ばしいことだ。ハーベイがどんな人物だったか、そして彼が何を体現していたかを、この映画を見た人たちは思い出すだろう」(c)AFP/Rob Gloster