【4月23日 AFP】前週の噴火で欧州の航空便を大混乱に陥れたアイスランドの火山はエイヤフィヤトラヨークトル(Eyjafjallajokull)氷河にあるが、それに連なる氷河の下には、実はその10倍も強力な「魔女の火山」がある。カトラ(Katla)火山だ。

 カトラ火山に「ふたをしている」ミールダルスヨークトル(Myrdalsjokull)氷河の一部、ソウルヘイマヨークトル(Solheimajokull)氷河には警告板が立っている。「注意!氷河は危険」--地下から届く地響きは、先日噴火した火山周辺よりもずっと不気味だ。カトラ火山が噴火すれば前週の噴火の約10倍。それに比べたら現在の混乱は「ちょっとしたリハーサル程度のもの」だと、アイスランドのオラフル・グリムソン(Olafur Grimsson)大統領は警告する。

 アイスランドに伝わる魔女の名にちなんで命名されたカトラ火山の荒涼とした風景は、その噴火の恐ろしさを映しだしているかのようだ。青ざめた氷原に切り立つ黒々とした火山岩、吹きすさぶ強風にあおられ雪は固く凍りつく。22日に現地に入ったときに目にした生き物は、1羽の大きなカラスだけだった。

 国民が懸念するのは過去、エイヤフィヤトラヨークトル氷河のEyjafjoell火山が噴火するたびに、カトラ火山も続いて噴火していることだ。西方にわずか数キロしか離れていないEyjafjoell火山では数分おきに轟音が鳴り響き、火山活動が活発なことがうかがえる。カトラ火山の噴火は時間の問題かもしれない。

 アイスランド大学(University of Iceland)地球科学研究所のSigrun Hreinsdottir氏は「過去3回のEyjafjoell火山の噴火では、その後にカトラ火山も噴火した。ふたつの火山の場所は非常に近い」と指摘する。ふたつの火山は地下で直接つながっており、互いにマグマが流れ込むという説もあるが、同氏は火山内部での活動については現在も大きな謎だと言う。

■約80年おきに噴火

 ただひとつ分かっていることは、1000年以上も昔、今はアイスランドになっている北極圏に近いこの島にバイキングたちが住み着いて以降、カトラ火山は約80年おきに噴火してきたという事実だ。前回噴火したのは1918年で、今回の噴火との間隔は知られる限り最長で「だからこそ非常に警戒して観察している」とHreinsdottir氏は言う。

 カトラ火山の噴火が毎回必ず大きな被害をもたらしたわけではないが、氷河の壁がとけ、住宅ほどの大きさの氷塊が押し寄せ、アイスランド南部に火山灰が降り積もった1918年の被害が再来する可能性は常に存在する。「怪物級」の噴火が欧州にもたらす混乱は、ずっと「穏やかな」前週の噴火の影響をはるかに超えることは容易に想像できる。被害の大きさは風向き、火山灰の性質、噴煙の高さなどにかかっている。

 カトラ火山の真下に住むということは恐怖やストレス、面倒と隣り合わせだが、近隣のVik村にあるカフェの店主エリアス・グドムンドソン(Elias Gudmunsson)さんは、火山の危険に関する取材にはうんざりしていると苦笑する。「ラジオ局から誰かが電話をかけてきては『大丈夫ですか、生きてますか?』といった質問ばかりだ」。人生にカトラ火山は切り離せないと言う。「子どものころから一緒に育ってきた。学校ではカトラの伝説を習い、噴火にそなえて避難訓練をしていたよ」

 カトラに通じる山のふもとの農場に暮らし、16年前から家族でミールダルスヨークトル氷河に観光客を案内しているAndrina Erlingsdottirさんは、噴火でお客が減ったと話す。「とても静かなものよ。氷河の上では地面の揺れなんか全然感じないし」。いずれ必ず噴火するのならば、いっそのこと早く噴火すればいいのにと笑う。「こんなことを言うのはうちだけでしょうけれど」

 もしカトラが噴火して、自宅のそばにある谷に氷河が解けた大量の水が流れ込んだら、Erlingsdottirさん一家は15分以内に避難しなければならないのだという。(c)AFP/Sebastian Smith