■翼を持つ少女

『フリーク』は、英国人宣教師夫婦のもとに生まれた翼を持つ少女の物語だ。この少女はある日、南米のチリで教授が住む家の屋根の上に降り立つ。少女はサラファ(Sarapha)と名づけられ、彼女を天使と信じた人たちが病気を治してもらおうとこの教授の家を訪れるようになる。

 しかし、サラファは拉致され、ロンドンで見世物にされてしまう。逃げ出すも捕らえられ、自身が人間であることを証明するよう迫られる。そして解放されると、サラファはチリの家に戻ろうと飛び立つが、旅の途中で力尽き、大西洋(Atlantic)に落ちてしまう。

 スモリク氏は著書のなかで、「読んでみれば、わずかながらも『フリーク』の完成形が見える。物語、寓話、夢、陽気さ、風刺喜劇、ブラックユーモア、悲劇、悪夢、サスペンス、詩、それらが巧みに盛り込まれている」と未完の作品について説明している。

■チャップリン没後は秘密に

 では、なぜ、『フリーク』は未完に終わったのか。

 少年時代をチャップリンの屋敷の近くで過ごし、何度か彼に遭遇したこともあるというスモリク氏は、その理由が一つだけではないと語る。「チャップリンはかなり高齢だったし、彼の体の負担になることを懸念して妻は撮影を嫌がっていた」としながら、さらには映画作りでチャップリンが完璧主義者だったことも影響していると付け加えた。

 またそれ以外にも、複雑な映画プロジェクトの保険請負人が見つからないなどの世俗的な問題もあったという。

 息子のマイケルさんによると、1977年にチャップリンが死去した後は、遺族が『フリーク』の脚本を他人の手に渡らないよう厳重に守ってきたのだという。その状況については「ほとんど秘密だった」と説明している。

 しかし、2010年に『フリーク』の秘密は解除されることになった。すでにチャップリンに関する書籍を1冊著し、家族とも親交があったスモリク氏が、この作品に関する資料を見せてほしいと家族に相談したことがきっかけとなった。

 資料のなかには、妻ウーナが1974年にスイスの屋敷の庭で撮影したチャップリンの映像もあったという。

 少女が大西洋に落ちるラストシーンの撮影後、永遠に木箱の中で眠り続ける運命にあった翼──しかし、チャップリンの邸宅跡に開館予定の博物館で展示されることがこのほど決まり、ここを訪れる人は、これを実際に見ることができるようになるという。(c)AFP/Nina LARSON