【5月8日 CNS】「照明をもう少し明るくしてください。出演者、位置について!」「さっきのシーンをもう一度通してやりましょう」――。

そんな撮影現場の声が飛び交う中、毎日100本近い短編ドラマが撮影され、月の制作本数は500本にも達する。多くの人は思わずこう尋ねるかもしれない。ここは、中国最大の映画・ドラマ撮影拠点として知られる横店か、と。

だが、そうではない。ここは河南省(Henan)鄭州市(Zhengzhou)だ。「鄭州日報」によると、鄭州市はいま「マイクロドラマ創作の都」として急速に存在感を高めている。かつてこの街は、「鉄道が築いた街」と呼ばれ、農業大省・河南省の省都であり、工業都市として知られていた。洛陽市(Luoyang)や開封市(Kaifeng)といった歴史ある古都に比べると、鄭州にはどうしても工業都市の印象が強く、文化的な華やかさや街の風情という面では目立ちにくかった。人びとがこの街を訪れるのも、長くは「滞在のため」ではなく「乗り換えのため」だった。

しかし今、その流れが変わりつつある。スマートフォンの小さな画面の中で人びとの注目を集めることが大きな価値を持つ時代になり、縦型画面に最適化された「短く、速く、密度の高い」ミニドラマが一気に存在感を強めた。

データ分析会社DataEyeによると、2025年の中国のミニドラマと漫画動画の年間市場規模は1000億元(約2兆3321億円)に達し、映画興行収入のほぼ2倍に迫った。利用者数は7億人近くに達し、ネット利用者全体の約7割を占めている。こうした新たな映像市場の拡大は、都市の勢力図も塗り替える。特に内陸都市にとっては、一気に追い上げる好機となる。そして鄭州は、その波を的確につかんだ。

現在、鄭州は中国三大ミニドラマ制作拠点の一つとされ、制作力でも発信力でも全国をリードしている。全国の制作本数の4割近くを担い、年間撮影本数は全国2位に上る。まさに「縦型ドラマの街」と呼べる状況だ。数字を見れば、その勢いはさらによく分かる。鄭州では1日におよそ100本の短編ドラマが撮影を開始し、月間では約500本が制作されている。単純計算すれば、ほぼ1時間ごとに複数の作品が動き出していることになる。そのスピードと効率は、驚くほど高い。

この急成長の背景には、都市の将来を左右する経済的な計算もある。現在、鄭州市の短編ドラマ市場規模はすでに90億元(約2098億9440万円)を超えている。しかも、制作そのものだけでなく、関連するより幅広い産業も育ちつつあり、鄭州は映像業界の人材が戻ってくる街にもなっている。かつて北京市で働いていた照明スタッフや、上海市で活動していた脚本家たちが、次々と鄭州へ移り、この街に根を下ろしている。すでに関連の就業者は4万人を超えているという。

では、なぜ鄭州なのか。まず大きいのは、しっかりした産業基盤があることだ。少林寺の武術文化、黄帝ゆかりの地、黄河文化といった豊かな歴史資源に加え、鄭州はネット文学の盛んな地域でもある。こうした土壌が脚本づくりの源泉となり、多くの短編ドラマ制作会社や配信プラットフォームを育ててきた。

次に、制作コストの安さがある。セットづくり、エキストラ、衣装やメイク、小道具、さらに食事、宿泊、移動まで含めた総合コストは、北京市や杭州市(Hangzhou)よりおよそ3割低いとされる。交通の便もよく、外部から制作チームや関係者が来やすい点も強みだ。予算に敏感な制作側にとって、これは大きな魅力になる。

さらに、人材の厚みも見逃せない。業界では、中国の映像作品を支える優秀な照明スタッフの多くが河南省出身だとも言われている。こうした人材の集積が、鄭州における映像産業の厚みをさらに増している。現在、鄭州にはミニドラマ向けの専門撮影拠点が31か所整備され、1000社を超える制作会社が集まっている。

加えて、行政の後押しも大きい。鄭州市は2024年から支援策を打ち出し、優れた作品には最大30万元(約699万6480円)の奨励金を出している。100か所以上のロケ地を掲載した撮影マップも公開しており、ランドマークや商業施設、ホテルだけでなく、細かな撮影向きスポットまで示している。これは単なる案内ではなく、全国の制作チームに向けた「ぜひ鄭州で撮ってほしい」という明確なメッセージでもある。

行政の役割も、従来の管理者という立場から、産業を支える伴走者へと変わってきた。今年の鄭州市政府活動報告でも「ミニドラマ創作の都」が明記され、人材育成の強化、全国規模の脚本取引大会の誘致、作品の海外展開支援などが重点施策として掲げられている。
こうして鄭州は、単なる通過点ではなく、創造力と活気を持つ映像の街として新しい顔を見せ始めた。

この街の成長が示しているのは、都市の運命は生まれ持った条件だけで決まるわけではないということだ。大切なのは、時代の変化を見極め、どこに勝機があるのかを正確につかむことだ。進むべき分野を見誤らなければ、たとえスマートフォンの小さな縦画面の中でも、大きな産業を育てることはできる。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News