【8月13日 CNS】「初めて自分を職業俳優と呼べるようになった。誰にとっても夢のようなことだ」

そう語るのは、米国の俳優マーク・ハーマン(Marc Herrmann)さんだ。ここ2年、中国のショートドラマに立て続けに出演したことで、彼は人生が変わった。

かつては端役ばかりだった彼だが、中国のショートドラマ配信プラットフォーム「ReelShort(リールショート)」の人気作品に主演し、メディアからは「ショートドラマ界のトム・クルーズ(Tom Cruise)」と呼ばれるまでになった。現在は主演だけでなく脚本作りにも参加し、この新しい産業の重要な担い手となっている。

ハーマンさんのケースは特別ではない。

中国発のショートドラマプラットフォームは北米で急速に広がり、多くのハリウッド関係者が次々と参加している。

代表的なプラットフォームのうち、ReelShortの運営元は中国企業の楓葉互動(Crazy Maple Studio)、ショートドラマアプリのDramaBoxは北京点衆科技(Beijing Dianzhong Technology)が手がける。

米モバイルアプリ調査会社「センサー・タワー(Sensor Tower)」によると、2025年1~3月期における両社の海外アプリ内課金収入は、それぞれ1億3000万ドル(約193億4140万円)と1億2000万ドル(約178億5360万円)で、世界のショートドラマアプリ収入ランキングで上位2社となった。

2024年には、ReelShortが米国市場で累計2500万ダウンロードを突破し、現象的な人気を得た。中信建投証券のデータによれば、世界の短編ドラマアプリ収益トップ50のうち、中国企業が開発したものは41本で、全体の8割以上を占める。

背景にあるのは、中国のマイクロ短編ドラマ産業がすでに確立したエコシステムだ。「短く・速く・わかりやすく」という特徴で、映像コンテンツの消費構造を塗り替えている。

2024年、中国のショートドラマ市場は504億元(約1兆427億円)規模に達し、映画の興行収入を初めて上回った。字節跳動(バイトダンス、ByteDance)や愛奇芸(iQIYI)といった大手プラットフォームは、欧米や東南アジアへの展開を急いでいる。

一方、ハリウッドはかつての勢いを失いつつある。映画興行収入の情報を収集するデータベースウェブサイト「ザ・ナンバーズ(The Numbers)」の統計では、ハリウッド映画の世界興行収入シェアは2009年の90%超から、2024年には69.5%まで低下した。資金縮小や生産減少、ストライキ頻発のなか、中国のショートドラマは効率的な制作体制と配信網で空白を埋めている。

中国のショートドラマは海外でも人気を得ているが、それは単なる輸出ではなく、現地向けに題材や映像表現を作り替えている点に特徴がある。

中国伝媒大学(Communication University Of China)の徐文松(Xu Wensong)副教授は「ショートドラマは強いストーリー性とテンポの速さ、多くのどんでん返しで即座に感情を動かすエンタメ性がある。制作品質の向上も加わり、国際市場で競争力を持つ」と語る。

徐副教授は「海外視聴者向けには、狼人や吸血鬼などのファンタジー要素を取り入れるなど、現地化も進めています」と補足した。

ショートドラマの制作手法は、従来の映像産業の常識も変えつつある。

ロサンゼルスで撮影されるReelShort作品は、平均8日で40~50話を撮り終え、最短3か月で配信される。スタッフは映画学校出身者やフリーランスのハリウッド関係者が中心で、制作費は25万ドル(約3719万5000円)程度に収まる。

「このスピードは従来の映画や連ドラでは考えられない」と、ReelShortのプロデューサーは話す。

俳優の採用も業界を変えている。キャスティング担当者によると、俳優募集サイト「Backstage」に掲載される案件の8割はショートドラマ向けになっているという。

米国で映像編集を行う業界人も、「いまロサンゼルスでは、中国資本・中国制作チーム・ハリウッド俳優出演の短編ドラマが急増している。これが失業寸前だったハリウッドの人々を救っている」と話す。

制作・運営も現地市場に最適化されている。ReelShortは小説プラットフォーム「My Fiction」で人気IPを確保し、5500万アクティブユーザーの行動データを活用して、ストーリー展開や課金ポイントを最適化している。

業界では、中国型の「無料+課金」モデルは収益性が高く、回収も早いと評価される。対照的に、米国のQuibiはコスト高と展開の遅さで撤退した。

中国のショートドラマ海外進出は、ロイター通信(Reuter)が「中国文化が西洋で存在感を示す珍しい例」と評している。

中央文化・観光管理幹部学院の孫佳山(Sun Jiashan)副研究員は「ショートドラマの海外進出はデジタル時代の文化輸出の実践だ。短編ドラマは中国のソフトパワーを担い、世界の配信市場で差別化の道を切り開く可能性がある」と語る。

一方で、徐副教授は「同じようなストーリーや過度のどんでん返しに頼る傾向を改め、現実や歴史など多様なテーマに広げて、短くても余韻のある良質な作品を生み出すことが必要だ」と指摘している。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News