【三里河中国経済観察】深セン、ミニドラマ海外展開で新たな局面へ
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【12月18日 CNS】いまだ「中国最大の対外貿易都市」の座が揺らぐかどうかが語られる中、深セン市(Shenzhen)はすでに、これまでとは異なる新たな分野で動き出している。今回、注目されているのはスマートフォンでもドローンでもない。世界的に存在感を高めつつある「微短劇(ミニドラマ)」だ。
最近、深セン市・前海では「広東(深セン)ゲーム海外展開サービスセンター」と「深セン市ミニドラマ海外展開サービスプラットフォーム」という二つの重要な拠点が相次いで開設された。これに先立ち、「2025年中国ミニドラマ産業総合実力都市ランキング」が発表され、深センはミニドラマ分野における海外展開拠点として評価を受けている。
「深セン速度」で知られるこの都市は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の中国国内3番目の開催都市となった後、デジタルコンテンツ分野でも対外展開の中心的役割を担おうとしている。政策面を見ても、深セン市の対応は迅速かつ的確だ。
2024年7月、深セン市はネット配信向けの優良ミニドラマ作品に対し、最大200万元(約4402万1800円)の補助金を支給する制度を導入し、ミニドラマ産業パークの運営には最大500万元(約1億1005万円)を支援する方針を打ち出した。さらに2025年8月に公布された「深セン市デジタルクリエイティブ産業の高品質発展推進措置」では、ミニドラマの海外展開が明確に戦略分野として位置づけられ、国際市場の開拓が政策目標として示された。
関連データによると、深センのミニドラマ産業は安定した成長を続けており、主要企業の業績拡大が目立つ。産業全体の規模は2025年に60億元(約1320億6540万円)に達する見込みで、2024年比でほぼ倍増する計算だ。
業界関係者の間では、ミニドラマの海外展開はすでに試験段階を超え、次の「100億ドル(約1兆5517億円)規模市場」へ成長する可能性を持つ分野と見られている。中国発のいわゆる「御曹司系」や「英雄系」のストーリー作品は、ティックトック(TikTok)やReelShort(リールショート)といった海外プラットフォームで一定の支持を集めており、短時間で展開する分かりやすい物語構成が、国や文化を超えて受け入れられている。調査機関の予測では、2025年の世界ミニドラマ市場は110億ドル(約1兆7068億円)規模に達するとされる。
こうした動きは、単なる文化コンテンツの海外配信にとどまらない。制作、運営、決済、集客までを含む一連のビジネスモデルそのものを海外に展開する試みでもある
。
深セン市が目指しているのは、今回設立された「一括型サービスプラットフォーム」を基盤に、外国人俳優の起用や海外配信体制の構築といった業界共通の課題を標準化・効率化することだ。これにより海外展開のハードルを下げ、質の高いミニドラマを安定的に国際市場へ届ける仕組みを整えようとしている。
では、なぜ深センがミニドラマ海外展開の中核都市とされるのか。その背景には、この都市が持つ固有の特性がある。
第一に、深センは中国有数の対外貿易拠点であり、40年以上にわたって国際物流、決済、商流ネットワークを蓄積してきた。これらの基盤は、デジタルコンテンツの国際展開とも高い親和性を持つ。第二に、深センは中国を代表するテクノロジー都市であり、企画、AI脚本、映像編集、特殊効果といったミニドラマ制作の各工程を支える技術基盤が整っている。
加えて、前海は「特区の中の特区」として金融分野の対外開放や制度改革の実験が進められてきた地域であり、新たなビジネスモデルを試行する環境が整っている。ミニドラマの海外展開にとっても、制度面での柔軟性は大きな強みとなる。
文化産業の規模も無視できない。2024年時点で、深センには規模以上の文化関連企業が3754社あり、売上高は1兆2875億元(約28兆3390億円)を超えた。これは広東省全体の51.5%、全国の約9.1%を占める水準だ。
より広い視点で見ると、深センのこの取り組みは、都市としての役割の変化を示すものでもある。かつて深センが世界に送り出してきたのは、華強北の電子部品、富士康科技集団(フォックスコン、Foxconn)で生産されるアイフォーン(iPhone)大疆創新科技(DJI)のドローンといったハードウェアだった。しかし現在は、ミニドラマという軽量で即時性の高いコンテンツを通じて、都市の魅力や中国の文化産業の活力を世界に伝えようとしている。
「製品を売る」段階から「コンテンツを届ける」段階へ。
この転換は、深センの文化産業が次の段階へ進み、中国がグローバルな価値連鎖の中で新たな位置を模索していることを示している。もちろん、文化的な違いへの対応やローカライズ、各国の規制といった課題は残る。それでも、激しい競争環境を乗り越えてきた深センは、政策、産業、技術、立地という強みを一体化させ、ミニドラマの世界市場において有力な立場を築きつつある。
中国最大の対外貿易都市・深センは、いま新たな役割をまとい、世界へ向かって動き出している。次に狙う舞台は、世界中の人々が日常的に手にするスマートフォンの画面の先だ。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News