【三里河中国経済観察】要素市場化改革が深化へ 10地域で新たな実証試験始動
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【10月9日 CNS】10の地域が新たな重要任務を担うことになった。
9月11日、中国政府は「全国一部地域における要素市場化配置の総合改革試験実施方案」を発表した。国務院の承認を受け、同日から2年間にわたり、北京市の副都心、江蘇省(Jiangsu)南部の主要都市群、杭州市(Hangzhou)・寧波市(Ningbo)・温州市(Wenzhou)圏、合肥市(Hefei)都市圏、福州市(Fuzhou)・アモイ市・泉州市(Quanzhou)圏、鄭州市(Zhengzhou)、長沙市(Changsha)、株洲市(Zhuzhou)、湘潭市(Xiangtan)を軸とした長株潭都市圏、粤港澳大湾区(広東・香港・マカオグレーターベイエリア、Guangdong-Hong Kong-Macau Greater Bay Area)の本土9都市、重慶市(Chongqing)、成都市(Chengdu)の10地域で、要素市場化配置に関する総合改革の試験事業が実施される。
◾️経済の「四分の一」を占める地域が対象
なぜこの10地域が選ばれたのか。地図を見れば、その理由は明らかだ。これら10地域の2024年の経済規模は全国の4分の1を超え、産業基盤が強く、影響力も大きい。各地域が全国経済をけん引する力を持つためだ。
これらの地域で試験を行うことにより、さまざまな生産要素や資源をより広範囲・多分野で効率的に配分する道筋を探ることができる。また、経済大省が成長をリードするための制度的支えにもなる。
中国マクロ経済学会の徐善長(Xu Shanzhang)会長は、「試験地域は京津冀(北京市・天津市<Tianjin>・河北省<Hebei>)、長江デルタ(上海、江蘇省、浙江省<Zhejiang>)、粤港澳大湾区、成渝経済圏(成都市と重慶市)など国家戦略上の重要地域をカバーし、東・中・西部を代表している」と指摘する。これにより、地域をまたぐ要素の流動における共通課題を解決できるだけでなく、都市圏内外のボトルネックを解消し、全国統一市場や国内循環の強化につながるという。
◾️改革の狙いは「資源配分の質向上」
今回の試験導入の背景には、経済発展の深層的なニーズがある。8月29日に開かれた国務院常務会議では、「要素市場化改革の深化は高度な社会主義市場経済体制の構築に欠かせない」と強調された。
改革開放以来、中国では商品の価格形成や流通の市場化が進んだ一方で、労働力・土地・資本などの「要素市場」は制度整備が遅れ、市場の機能が十分に発揮されていないという課題が残っていた。
徐氏は、「今回の試験を通じて、市場メカニズムが主導的役割を果たす資源配分モデルを探り、全国統一の要素市場を構築することが狙いだ」と述べる。これにより、生産要素を低効率分野から高付加価値分野へと導き、実体経済の発展を支えると同時に、資源のミスマッチや無駄な供給を是正し、経済の根本的な問題解決につなげるという。
◾️技術・データ・算力など新要素にも焦点
今回の試験では、土地・労働力・資本といった従来型の要素だけでなく、技術やデータといった新しい生産要素も対象となる。また、試験地域では「算力(コンピューティングパワー)」などの新たな要素配分の仕組みや価値実現モデルの構築も奨励されており、新たな生産力(新質生産力)の育成と発展を促す狙いがある。
たとえば、粤港澳大湾区の本土9都市では、深海開発、航空、ライフサイエンス、新エネルギー、人工知能(AI)、現代的種子産業などの新産業分野に焦点を当て、生産要素の革新的な配置を進める。河南省(Henan)鄭州市では、国家スーパーコンピューティング・センターの整備を支援し、算力産業の発展を推進する計画だ。
中国マクロ経済研究院の郭麗岩(Guo Liyan)副所長は、「試験の重要な目的は、新しい生産力の発展に対応した要素配分構造と支援体制を整えることにある」と述べる。特に、技術・データ・知識・マネジメントといった新しい要素の方向性と流通経路を明確にし、新産業分野への要素供給を最適化することで、企業の総合生産性を高めるとともに、中国企業が新たな技術・産業分野で先陣を切る力を強化できるという。
徐氏も、「改革試験によって教育・科学・人材、そして科学技術・産業・金融の好循環を実現し、先進的な生産要素が新しい生産力の形成にスムーズに流れ込む環境を整えることができる」と語っている。
◾️各地域の特性に合わせた改革
今回の試験は「全国一律」ではなく、地域の実情に応じた制度設計が特徴だ。
実施計画の基本構成は共通しているものの、各地域は得意分野に応じて異なる要素や課題に焦点を当てる。
たとえば、北京の副都心では国有企業に対し、研究開発資金を事前積立できる「R&D準備金制度」の導入を検討している。これにより、研究投資分の国有資本は資産評価の対象外とし、失敗時の責任を問わない「寛容制度」を整える。
江蘇省南部の重点都市群では、大規模科学研究プロジェクトの運営モデルを刷新し、「技術イノベーション・バウチャー」の相互認証を進める。長株潭都市群では、知的財産権侵害への迅速対応メカニズムの構築を目指す。
中国マクロ経済研究院の劉志成(Liu Zhicheng)研究員は、「今回の計画は地域ごとの要素や発展段階を十分に考慮し、重点改革分野を明確化したうえで、地方政府により大きな裁量権を与えた点に特徴がある」と述べる。
◾️要素の自由な流れが経済成長を潤す
土地や労働力が硬直的な制度から解き放たれ、技術やデータが価値を十分に発揮し、算力や空域といった新しい生産要素が最適な成長ルートを得るとき、それらは「生きた水」のように経済全体を潤す。こうして、中国経済はより高い次元の質的成長へと向かうことが期待されている。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News