【6月24日 CNS】中国経済の第一都市・上海市が本格的に動き出した。

 5月21日、「上海市消費喚起特別行動プラン」が発表され、32項目の実効性ある施策が打ち出された。

 上海が消費を刺激するのには、切実な必要がある。今年第1四半期、上海の社会消費品小売総額は前年同期比で1.1%減少し、1~4月も0.3%減と依然として減少傾向にあったが、減少幅はやや縮小している。消費の回復速度をいち早くプラスに転じさせることは、成長安定にとってきわめて重要な意味を持っている。

 今回の政策では、消費が「新しい物語」を語り始めている。

 32の施策の中でも、「新しい形の消費」の育成が特に注目されている。具体的には、先進的なデジタル消費の促進、高齢者向け消費の供給拡大、「悦己消費(自己満足型消費)」の充実、クルーズ旅行市場の潜在力の掘り起こし、初登場製品経済の質の高い成長の推進などが含まれている。

 中国情報協会常務理事であり、国研新経済研究院の創設者である朱克力(Zhu Keli)氏は、「上海は1人当たりGDPが2万ドルを超える超大都市であり、従来型の消費市場はすでに飽和しつつある。今後は、より柔軟な階層型消費構造の構築が求められている」と指摘する。

 なかでも、「悦己消費」の考え方が注目を集めている。

 悦己消費とは、平たく言えば、若者が自分を楽しませ、感情的な満足を得るために行う消費のことだ。かつては「必要だから買う」だったが、今は「気持ちが満たされるから買う」へと変化している。機能の満足から感情の共鳴へと、消費のパラダイムは変わりつつある。

 近年話題となっている「谷子経済(オタク経済)」も、その好例である。「2024年中国青年消費トレンドレポート」によれば、調査対象となった若者のうち約3割が「感情的な価値によって癒されるため」に消費すると答えており、この分野の市場ポテンシャルの大きさがうかがえる。

 悦己消費市場の育成に向けて、上海市の計画ではさまざまな創意工夫が盛り込まれている。たとえば、オリジナルIP(知的財産権)の開発支援、デジタルエンタメ分野と製造業の連携促進、古典庭園や特色ある街区を活用して、国潮(中国テイストの流行)やアニメ、無形文化遺産などのIPと組み合わせたテーマ型の観光・ショー企画の創出などだ。加えて、健康・養生、趣味講座、ストレス解消、ペットとのふれあいといった業態の支援も盛り込まれている。

 朱克力氏は、「上海が悦己消費の概念を打ち出したことは、中国の都市型消費が物質的な満足から価値の実現へと進化していることの証しだ」と述べる。悦己消費は単なる『ぜいたく』ではなく、消費者が購買行動を通じて自己認識や個性を表現しようとするものであり、こうした多様な消費形態は都市の産業構造改革にとって需要面からの強力な支えとなる。

 実際、今年に入ってから、各地の経済大省も次々と消費促進策を打ち出しており、その多くが新しい形の消費を重点分野として掲げている。たとえば、広東省(Guangdong)は「AI+消費」を積極的に推進し、「ロボット+」キャンペーンを展開して、ロボットの消費シーンの発掘に取り組んでいる。浙江省(Zhejiang)は、国産アニメやデジタルコンテンツ、二次元文化といった若年層の消費ホットスポットの育成を掲げている。

 消費を振興するためには、まず「市民にお金があること」が大前提だ。

 今回の上海市の計画では、「都市・農村住民の収入増加策」が6大重点行動の筆頭に掲げられている。まさに的を射た対応だ。

 具体的には、雇用の安定を図り、重点産業や中小企業、農村地域などへの雇用支援を進めるとともに、所得の拡充に向けた制度整備が進められる。賃金決定メカニズムを改善し、現場労働者への分配を強化する方針も打ち出された。

 2024年第1四半期、上海の都市住民1人当たりの可処分所得は25,766元に達し、前年同期比で4.6%増となり、全国でトップの水準となった。

 さらに、社会保障制度の整備、消費者権利保護、休暇制度の保障なども計画に含まれており、安心して消費できる環境づくりも図られている。市民が「財布の厚み」を「持続的な消費力」へと転換できるよう後押しする狙いだ。

 今回の上海の32項目の政策は、単に消費券を配って短期的な需要を喚起するものではない。それは、「収入増→品質向上→革新推進」という、持続的で循環可能な消費エコシステムを築こうとする取り組みだ。

 すなわち、市民には「お金があり」、そのお金を「使いたくなるような良い製品」があり、さらには「心動く新しい消費シーン」がある――上海は、そんな理想的な消費都市のかたちを模索し始めている。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News