■「痛みを笑い飛ばそう」

完売となった毎週恒例のコメディショーには、カップル、家族、友人連れなど、さまざまな背景や人種の人々が集まっていた。

共同司会者のシャンレイ・ファン・ウィックさんはアフリカーンス語を話すが、「カラード」のコミュニティーの出身だ。「カラード」とは、かつてのアパルトヘイト体制によって、さまざまな混血の人々を指すためにつくられた呼称だ。

ウィックさんは観客に向かって「私もアフリカーンス人なので、応募しようとした」「でも、彼らはとてもはっきりしていたよ」と自分の肌を指さした。

コメディアンのディラン・オリファントさんが「特権を持っていると、平等が抑圧のように感じるのさ」と皮肉を言うと、観客は歓声を上げた。

さらにトランプ氏が南アを攻撃する際に繰り返した根拠のない主張に言及し、「この国で『白人ジェノサイド(集団殺害)』は起きていない」「私たちには白人を殺せない。白人は遠くに住んでいるからね!」と冗談を飛ばした。これは、アパルトヘイト時代の人種差別のもう一つの名残で、南アの各都市に今も残る、主に人種に基づく空間的な隔離を指している。

コメディアンのダン・コーダーさんは、南アでの生活の困難さ──犯罪率の高さや貧富の格差など──から、多くの国民は「トラウマへの反応」として「特に毒のあるユーモアを好む傾向が強い」と指摘。

「まん延する腐敗、停電、道路の破壊、あらゆるものの機能不全といった苦痛と不条理を笑い飛ばすのは、自然な反応だ」と述べた。コーダーさんは自身が司会者を務める深夜テレビ番組で、トランプ氏の主張を論破してきた。

ソーシャルメディアのコメディアンで俳優のアントン・テイラーさんは、ユーモアは「人々の警戒心を解き」、トランプ氏の「ばかげた」主張に応えるのに「実に素晴らしい方法」だと述べた。

アフリカーナーと英国人の血を引くテイラーさんは、「白人ジェノサイド」陰謀論をやゆする寸劇を複数公開している。

動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」で10万回以上再生された寸劇の一つでは、祖国南アが「世界で最も栄養状態が良く、最も裕福な難民」を生み出したことを誇りに思うと語っている。